この春、私の父は喜寿を迎えた。超高齢社会の日本で「77歳はまだ若い」と思うかもしれないが、父はこの数年猛スピードで老けていき、年齢不相応のボケっぷりを発揮した。
現在は自分の足で立つのもおぼつかない。ヨチヨチどころかヨボヨボ。足腰が衰弱し、車椅子がなければ外出できない。排泄の失敗は日常茶飯事で、紙パンツからもダダ漏れる。しかし、残念なことに大病もなく、内臓はすこぶる元気でよく食う。
そんな父が老人ホームデビューすることになった。紆余曲折あったのだが、母の介護疲労が限界を超えたというのが最大の理由だ。
一応、娘としてはあの手この手で父の老化防止策を講じてきたつもりだ。正直に言う。「老化は誰にも止められない」と。酒もたばこもたしなまない父が、驚異のスピードで寝たきりまっしぐらなのだから。アンチエイジングなんてウソっぱち、と声を大にして叫びたい。
始まりは5年前。父72歳の時である。
父からのメールが変化した。漢字変換をできずひらがなだけになり、そのうち日本語変換ができなくなって文面がローマ字だけになった。しかも打ち間違いが多い。解読不能。最初は暗号か何かの呪いかと思った。
以前は写真もやたらと送ってきた。その写真も次第にピントがボケていき、添付もできなくなったようだ。父が奮発して購入したニコンのデジタルカメラも、気が付けばホコリだらけ。60万円が無駄になった。
実は私の父は新聞記者だった。自分で現像して紙焼きにするほど写真が好きだったし、原稿もワープロで書いていたはずなのに。ここまで衰えるものかと愕然とした。少し悲しかった。
親からの意味不明なメールが増えたら、老化が本格的に始まったと思っていい。私の父は坂を転がり落ちるように、日常的な作業ができなくなっていった。
実録 父親がボケた