衣笠祥雄さんも亡くなる直前は…「かすれ声」に潜む重大病

衣笠祥雄さんは大腸がんで亡くなった
衣笠祥雄さんは大腸がんで亡くなった(C)日刊ゲンダイ

 プロ野球解説者の衣笠祥雄さん(享年71)は、大腸がんで亡くなる直前のテレビ中継で声がしわがれ、ファンから「聞き取りにくい。何か大きな病気を抱えているのではないか」と心配する声が上がっていたという。本人は周辺に「風邪をこじらせたせい」と説明していたそうだが、がんやリンパ腫などの重大病がしわがれ声の原因になる場合もある。東京医科大学八王子医療センター呼吸器内科の寺本信嗣医師に解説してもらった。

「しわがれ声、かすれ声、弱々しい声など普段と異なる音声になることを『嗄声(させい)』といいます。嗄声は日常生活が原因となるものと病気のものの2つに大別されます」

 日常生活が原因となる嗄声は声の出し過ぎ、歌い過ぎなどで声帯を酷使して炎症やむくみが出た場合が多い。

 喫煙とお酒の飲み過ぎもよくない。

「たばこは煙で、お酒はアルコールの度数の高さでのどを刺激し、炎症を引き起こして嗄声となることがあります」

 加齢も嗄声の大きな原因だ。声は呼気が声帯を振動させることで発生する。それには十分な肺活量と、正常な声帯、口腔や咽頭や鼻腔による共鳴が必要だ。ところが年を取るとそれが難しくなる。

「特に目立つのは声帯の衰えです。声帯の表面は粘膜上皮に覆われて1秒間に男性で100回、女性で200回程度振動します。しかし、年を取ると粘膜が硬くなり、振動が弱くなる。声帯粘膜の上皮に多数存在する線維芽細胞の機能により声帯は弾力性を維持していますが、年を取るとコラーゲンが蓄積されるなどして声帯粘膜が硬く、振動しづらくなるからです」

 中には加齢とともに声帯が痩せて声を出すときに閉じるはずの声帯が始終開きっ放しになってヒューヒューとした気の抜けた声になる人もいる。

■大動脈瘤、食道がん、咽喉頭逆流症が隠れているかも

 しかし、本当に気をつけなければならないのは病気による嗄声だ。

「病気による嗄声というと、多くの人が想像するのは風邪や咽頭炎などで声帯が腫れて声帯ポリープや声帯結節ができるケースでしょう。しかし怖いのは神経まひによる嗄声です。深刻な重大病が隠れていることが多いからです」

 通常、声を出すには左右の声帯が中央方向に近寄って気道が狭まり、呼気によって声帯を震わせなくてはならない。声帯を支配する反回神経は脳幹から枝分かれして、一度そのまま声帯の横を素通りし、胸郭内に入り、左側は大動脈弓、右側は鎖骨下動脈の部分で折れ返り、食道の両側をたどって上行。甲状腺の裏側を通っている。

「このため、この経路のどこで反回神経障害が起こっても声が出なくなるのです。実際、嗄声を訴えてきた患者さんを診察して、がんやリンパ腫が見つかるケースは珍しくありません」

 たとえば、脳幹付近では頚静脈孔腫瘍、頚部では咽頭がんや甲状腺腫瘍、胸部では肺がん、食道がん、弓部大動脈瘤、縦隔腫瘍、乳がんなどが嗄声の原因となるという。

 むろん、がんは転移するのでその他のがんであっても嗄声となる場合がある。たとえば大腸がんの転移先は肝臓、腹膜、肺、骨、脳などが多く、甲状腺への転移は少ないとされている。しかし、最近は頭頚部画像診断の進歩により、大腸から甲状腺へのがん転移の報告例は増加している。

「のどが渇き過ぎて声がしわがれることもあります。そのため、口が乾く副作用のある薬は注意が必要です。副交感神経が活発になるのを抑えて胃や腸の活動に伴う痛みや炎症を防ぐ抗コリン剤は、その代表です。催眠・鎮痛剤、抗不安薬や抗精神病薬の一部も口渇の副作用があります」

 最近目立つのは、咽喉頭逆流症によるしわがれ声だ。

「この病気は強い酸性の胃液や胃で消化している途中の食べ物が逆流し、咽頭部まで達して炎症を起こすもので、嗄声になる人もいます。この病気は意外と本人が気づいていないことがありますが、将来、咽頭がんなどになる恐れもある。お腹が出ている人、加齢で食道機能が低下している人、ぜんそくや血圧、心臓の薬で下部食道括約筋を緩める作用のあるものを飲んでいて嗄声の人は、疑った方がいいでしょう」

 嗄声が2週間以上続く人は耳鼻科や呼吸器科の医師に相談することだ。

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