「血圧」は心臓疾患の重大なリスク因子のひとつです。高血圧を指摘され、自宅で毎日測定しているという人も少なくないでしょう。
一般的に血圧は上腕部で測定し、「収縮期血圧(上の血圧)140㎜Hg以上/拡張期血圧(下の血圧)90㎜Hg以上」だと高血圧とされます。血圧を測定して正常の範囲内に収まっていると安心するものですが、片方の腕の数値だけではなく、もう一方の腕の血圧も測定して「左右差」をチェックすることが大切です。
本来、上腕の収縮期血圧の左右差はほとんどなく、正常な人は5㎜Hg内に収まります。しかし、差が10㎜Hgになると動脈の狭窄があり、15㎜Hgになると脳卒中や心筋梗塞による死亡が多くなるという報告があります。
心臓から全身に血液を送り出す大動脈は、心臓から出てすぐのところで左右の頚動脈と鎖骨下動脈に分かれ、頭頚部と上半身へ血液を送っています。腕の左右で血圧差があるということは、鎖骨下動脈が左右それぞれの腕に向かう途中のどこかで狭くなっているため、そちら側の下流に当たる上腕部の血圧が低くなるのです。
また、先天的に心臓や血管の構造に問題があり、たとえば腕に向かう動脈が本来の場所とは違った少し曲がりくねっているところから出ていたりすると、血圧の左右差が表れるケースもあります。いずれにせよ、血圧の左右差がある人は、血管に何らかのトラブルを抱えている可能性が高いのです。
左右差がある場合、右が高くて左が低くなるケースがほとんどです。そうした人は大動脈瘤や大動脈弁の病気を抱えているケースが多いといえます。
逆に左が高くて右が低い場合は、ほとんどが動脈硬化です。動脈硬化が進んで血管が狭窄しているところがあるので、血圧の差が生じているケースです。
こうしたさまざまな心臓疾患のリスクを判定できるため、近年、医療機関では血圧を両腕で計測することが一般的になってきています。当院でも、下肢と上肢の血圧比を計測するABI検査を行っています。両上腕、両足首の血圧を同時に測り、血管の閉塞や動脈硬化の程度を診ます。左右で大きな差が認められた場合は、CT検査をしてより詳しく調べる場合もあります。
■高い方の血圧を過小評価してはいけない
ただ、左右の血圧差があったとしても、すぐに直接的な死亡原因になるような心臓トラブルを抱えているわけではありません。まずは自分の血管の状態やリスクをしっかり把握して、食生活などの生活習慣に気を付ければよいのです。
左右差がある場合に注意すべきは、高い方の血圧を過小評価してしまうことです。高い方が高血圧と診断されるゾーンに入っていても、低い方の血圧が正常の範囲内だから問題ないだろうと考えて、そのまま放置してしまうケースがあるのです。
血圧が高いことで起こる病気は、狭心症、心筋梗塞、大動脈瘤、大動脈解離といった心臓疾患だけでなく、脳卒中や網膜症など、たくさんあります。片方の血圧が高ければ、こうした病気に対する注意が必要なのです。
また、高い方が高血圧の範囲に該当しない場合も気を付けなければなりません。普段は収縮期血圧が120㎜Hgくらいの人が、低い方へ振れて、100㎜Hg以下になったりすると、血管には相当な負担がかかるからです。
中には、ずっと片側の上腕だけで血圧を計測していて正常だと安心していたら、実はもう一方の上腕の血圧が高い状態だったのに放置され、突然、心臓発作や脳卒中を発症したという患者さんもいます。
自宅で血圧を計測する際も両腕で測り、日頃からきちんと左右差を把握しておくことは、自分の命を守ることにつながります。
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