人生には歌がある――。テレビ番組のタイトルではないが、歌といえばカラオケである。
近年、カラオケ装置を設ける老人ホームが相次ぎ、入居者たちが余暇時間を楽しむという生活が、随分と増えてきた。
規則に縛られた集団生活者の息抜き、または、ストレス解消にも効果があるというカラオケを、早くから医療現場に導入している病院がある。
埼玉県越谷市にある「南越谷健身会クリニック」(周東寛院長)だ。病院の3階に「健康ひろばメディカルヘルス倶楽部」を設け、週に4回カラオケ教室を開いている。
カラオケ専門店も顔負けの高性能スピーカーを導入し、参加者は外来や近隣住民の中高年男女たち。
歌の指導者は、自らも歌好きという周東寛院長である。
「私は医師になった年、歌の大会に参加して優勝したほどの歌の実力者(笑い)。作詞、作曲もやりますし、今のようにカラオケがポピュラーではなかった40年も前から歌と健康に注目し、医学的分野から研究を続けてきました」
周東院長は総合臨床医として、各病症を持つ患者に薬を処方し、治療に当たる。その療法の一環として、または診療のモチベーションを高める目的で「カラオケ療法」を導入したという。
継続するこうしたカラオケ療法で、目に見えて効果を上げている病気が「高血圧症」だという。
なぜカラオケが高血圧症に効果があるのか。周東院長がこう言う。
「カラオケの中でも、例えば歌手、都はるみの『アンコ椿は恋の花』という歌があります。このアンコ~と、うなり節の箇所では、歌う人は誰もが大きく息を吐き出します。そのため、息を大きく吸い込むことになりますが、これは酸素を大量に取り込むことにほかなりません。上手な腹式呼吸で酸素を大量に取り込めば血管の収縮と拡張が活発になり、血行が促進され、血圧が下がるのです」
高血圧症の改善は、脂質代謝異常症、動脈硬化、肥満の改善にも結び付くという。
実際、周東院長は「カラオケ前後の血圧と中性脂肪値=3月後検査」のデータを示す。
Aさん(男性、66歳)。カラオケ前の最大血圧(㎜Hg)200、3カ月後140。最小血圧、カラオケ前89、3カ月後83。中性脂肪値201、カラオケ3カ月後136。
Bさん(女性、57歳)の場合は最大血圧173、カラオケ3カ月後130。最小血圧87、カラオケ3カ月後81。中性脂肪値293、カラオケ3カ月後153。
Cさん(女性、53歳)は最大血圧168、カラオケ3カ月後142。最小血圧96、カラオケ3カ月後92。中性脂肪値183、カラオケ3カ月後149。
「このデータはほんの一例にすぎません。ある程度血圧が下がりますと降圧剤を減らします。でも再上昇することなく、血圧が安定しているのです。カラオケ治療の効果でしょう」
カラオケ療法