人生100年時代を支える注目医療

近未来の手術室「スマート治療室」の開発が進んでいる

村垣善浩教授
村垣善浩教授(C)日刊ゲンダイ
村垣善浩教授 東京女子医科大学先端生命医科学研究所・先端工学外科学分野

 いま日本医療研究開発機構(AMED)の支援で、IoT(モノのネットワーク)を活用した「スマート治療室」と称される近未来の手術室の開発が進められている。手術で使う各種の医療機器をパッケージ化し、ネットワークでつなぐことで、術中の患者の状況などの情報をリアルタイムに整理統合し、医師やスタッフ間で共有できるというものだ。

 開発に参加するのは国内の5大学と11企業。プロジェクトを統括する同研究所の村垣善浩教授(顔写真)が言う。

「手術中に起こるインシデント(事故の予兆)やアクシデント(事故)の40%くらいは、医療機器や器具に関連するものと報告されています。それだけ現在のオペ室は機械であふれています。しかも、各機器が連動せずに完結し、内蔵の時計にも微妙なズレがある。そのようなことが治療効果を下げているのです」

 スマート治療室は別名「SCOT(スコット)」と呼び、モデルの違うものが広島大学と信州大学に設置されているが、同研究所に設置されているのは最終目標モデル(プロトタイプ)の「ハイパースコット」だ。

 スコットは、手術室をひとつの医療機器ととらえているのが特徴。室内にオープンMRI、ロボット手術台、術者コックピット、手術ナビゲーションシステム、手術顕微鏡などを設置。約20種類の機器が相互に接続され、壁に備え付けられている80インチの4Kモニターには、術中画像や患者の生体情報、手術器具の位置情報などが一元化されて映し出される。

「外科手術は、術者の経験や感覚に頼っている部分が大きかった。それが術中MRI画像や運動誘発電位などの情報がリアルタイムでフィードバックされるので、病変のどの部分をどれくらい切除するか最適に判断できます。がんなどの摘出率が上がり、合併症や後遺症のリスクを減らせるのです」

■蓄積されたデータを解析してAIを活用したサポートも可能

 期待されるのは手術の精度や安全性が高まるだけではない。スコットで集められた情報は、すべてデジタル化されて記録されるので手術後の検証にも利用できる。症例が蓄積すれば、将来的にはビッグデータとして解析し、AI(人工知能)を活用した術者への意思決定のサポートも可能になるという。

「パッケージされた機器は『オペリンク』というシステムで結ばれ、現在、40種くらいの機器とネットワーク化できます。このシステムを国際標準にしたいと考えていて、実現すれば、使える機器がさらに横に広がります」

 スコットのパッケージ化は現在、「実質臓器」「内視鏡手術」「血管内治療」の3種類で開発を進めているという。

 すでにスコットを使った臨床研究(手術)は、広島大学と信州大学で「脳腫瘍」「骨転移」「てんかん手術」で行われている。同研究所のハイパースコットを使った臨床研究は来年3月に1例目を行う予定。当面は脳腫瘍を対象に、初年度は30例の臨床研究を目指している。

 また、実用化としては2020年に「スタンダード」モデルを販売する予定。自動車に続く日本の輸出産業として、海外への販売も視野に入れているという。

▽1986年神戸大学医学部卒。東京女子医科大学脳神経センター、米国ペンシルベニア大学留学を経て、06年東京女子医科大学大学院先端生命医科学研究所。11年から現職(脳神経外科兼任)。〈所属学会〉日本脳神経外科学会、日本脳腫瘍学会、日本コンピュータ外科学会、日本生体医工学会など。

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