がんとは何か

日本人男性のがんの1割は酒が原因 発症のメカニズムとは

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 過度の飲酒が発がんに影響することは間違いない。国立がん研究センターが作成した「日本人のためのがん予防法」(2015年2月)には、飲酒ががんの罹患とがん死の原因となる割合はそれぞれ男性で9%と8.6%、女性ではいずれも2.5%と書かれている。

 気になるのは飲酒量と発がんについての関係だ。日本人男性を対象としたあるコホート研究では、1日当たりの平均アルコール摂取量が46グラム以上で40%程度、69グラム以上で60%程度、がん全体のリスクが上がるという。別の研究では男性は23グラム未満でリスク上昇がみられないことから、日本酒なら1合、ビールなら大瓶1本、ウイスキーやブランデーならダブル1杯、ワインならボトル3分の1程度にとどめることがよいとされている。

 もちろん、これは飲めて飲みたい人の場合。飲めない人・飲みたくない人は無理する必要はない。「がんに安全な酒量はない」という研究者もいる。

■飲酒後の唾液には発がん物質が血中の10倍超に

 では、飲酒はどのようなメカニズムでがんを発症させるのか? 国際医療福祉大学病院内科学の一石英一郎教授が言う。

「体内でお酒を分解すると発がん物質である『アセトアルデヒド』が発生します。これを無毒化するには『2型アセトアルデヒド脱水素酵素』(ALDH2)が必要です。この脱水素酵素には分解力の強い正常型と弱い欠損型があり、それを決めるのは両親それぞれから受け継がれた2つの遺伝子です。日本人は2つの遺伝子のうち片方もしくは両方が欠損した人が多く、体内にアセトアルデヒドが長く滞留することが発がんに影響していると考えられているのです」

 アセトアルデヒドはDNAに直接結合し、変異誘発性のDNA付加体(DNA変異を引き起こし、がん化となる物質がDNAと結合したもの)を形成する。その結果、DNAを障害することは培養細胞を使った多くの実験で証明されている。

 しかもお酒を飲んだ人の体からはアセトアルデヒドDNA付加体が検出され、唾液中の細菌によってもアセトアルデヒドは産生されるため、口腔内のアセトアルデヒド濃度は血中よりも10~100倍高くなることもわかっている。

 ただし、実際に生体内でDNAが障害されるかどうか、わかっていなかった。

 そこで英国のケンブリッジ大学の研究チームが、ALDH2が欠損したマウスにアルコールを投与し、DNAを観察する実験を行った。その結果、造血幹細胞のDNAの二重鎖が切断され、細胞内のDNA配列が戻らなくなることを確認。ALDH2が欠損しているマウスは、DNA損傷の数が正常なマウスに比べて4倍も多いことを突き止めた。この結果は世界的科学誌「ネイチャー」に発表され、大きな反響を呼んだ。

 ちなみに、お酒とかかわりが深いのは口腔、咽頭、喉頭、食道、肝臓、大腸(男性)、乳房などといわれる。お酒好きはお酒が特定のがんリスクを高めることは覚えておいた方がよさそうだ。

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