Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

さくらももこさんの命を奪った乳がんを早期発見する方法

さくらももこさん
さくらももこさん(C)共同通信社

 視聴率はアニメ歴代1位の39・9%で、テーマソングの売り上げは164万枚。平成を代表する漫画「ちびまる子ちゃん」で知られる漫画家さくらももこさんの命を奪ったのは、乳がんでした。享年53。早すぎる最期に、悲しみの声が上がっています。

 しかし、日本の乳がんの現状を突きつけた最期ともいえます。

 一般に、がんは細胞の老化とともに発症するため、年齢を重ねるにつれて患者が増えます。ところが、乳がん細胞を増殖させるのは女性ホルモンなので、生理がある時期ほどリスクが高い。40代から50代に乳がん発症のピークがあるのは、そのためです。

 現状を突きつけたというもうひとつの理由が、少子化。妊娠から出産、授乳している2年ほどの間は生理が止まるため、乳がんリスクが低下。授乳そのものが乳がん予防効果を持つことはほぼ確実視されていますから、子宝に恵まれた女性はそれだけ乳がんリスクが低いといえます。

 2017年は約8万9100人の女性が乳がんと診断され、約1万4400人が亡くなりました。死亡者数はこの30年で3倍で、今では11人に1人の女性が乳がんになる計算です。

 47都道府県でみると、乳がんが最も多いのは東京で、最少の鹿児島の2倍以上。東京の出生率が全国最低であることに関係があると思います。閉経後の肥満と運動不足も乳がんのリスク要因で、これらも東京の患者数を押し上げている可能性が高いでしょう。

 先ほど、肥満がリスクのひとつと書きましたが、肥満大国の米国では、この30年で乳がんによる死亡率が3割も減少しました。逆に日本は3割近く上昇しています。日本のメタボ化が進んだとはいえ、米国ほどではありません。なぜかというと、意識の差です。

 乳がんは、腫瘍が2センチ以下で、リンパ節への転移がなければ、9割は完治します。早期発見ほど治癒率が高く、比較的タチのいいがんです。その点で乳がん検診の受診率を見ると、米国は85%ですが、日本は半分以下の4割。この差が、死亡率の差につながっているとみられます。

 早期発見のカギがマンモグラフィーで、厚労省は2年に1回の受診を推奨。ただし、日本人を含む東洋人は、8割がデンスブレストと呼ばれる高濃度乳腺で、マンモで見つけにくいタイプ。これには、超音波が有効です。さらに、毎年検診を受けても見つけられないほど進行が速いタイプが2割あります。

 そこで、ベターな早期発見方法は、2年に1回の「マンモ検診+超音波検査」と毎月の自己触診です。自分の乳房の感触を覚えておき、変化があれば迷わず専門医を受診すること。触診の日は毎月決まった日がよく、生理がある方なら、出血が止まって4、5日目がいいでしょう。

 マンモは放射線です。進行が遅い8割の方が毎年受けると、過剰検診による被曝の問題があります。検診は2年に1回のマンモと超音波で、毎月の自己触診が無難。50代でパートナーの女性を失うのは、男性にとってもショックが大きいこと。定期的な“ダブルチェック”で乳がんが早期に見つかることは、決して少なくありません。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

関連記事