がんの痛みも緩和 欧米が認める「書くだけ健康法」の効果

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 健康は気になるが、ジョギングや体操をするのは面倒だし、サプリメントを買ったりダイエット教室に通うほどのお金もない。そんな人は毎日、日記を書いてみてはどうか? 書き方によっては記憶を整理するだけでなく、自らの生活習慣の是正やストレス解消となって意外な健康メリットをもたらすという。「日記を書くと血圧が下がる 体と心が健康になる『感情日記』のつけ方」(CCCメディアハウス)の著者で精神科医師・医学博士の最上悠氏に聞いた。

■手術後の回復も早い?

 日記を自分のパフォーマンスの向上や自己実現のツールにしている人は少なくない。サッカー日本代表の本田圭佑選手は小学校6年生からノートに日記を書くようになり、練習や食事のメニューから反省点や戦略分析までさまざまなことを書いていたという。中村俊輔選手も16歳からサッカーノートをつけていたのは有名な話だ。

 しかも、日記は書き方次第で体に良い効果をもたらすという。

「欧米では自分が抱えているネガティブな感情を書いて心を解放することは心身に良い結果をもたらすとの研究が盛んに行われています。実際、私の留学先のロンドン大学では外科手術を受ける前の患者に3日間、1日15分かけて文章を書いてもらったところ、手術後の傷口の回復が早かったとの研究結果が報告されていました。欧米の医学会ではがんの痛みや腰痛、喘息やリウマチの症状緩和すら報告され、それを臨床に応用しています」

 そのやり方は実に簡単。週3日・1日20分程度、つらい思いをした経験やトラウマをエッセーのように書き出すだけ。

 ネガティブな経験を書き出してストレスを自己開示するだけで、ストレスと関連する慢性疾患や不調の症状が改善するという。

 たかだか日記を書くだけで現代治療では治りづらい症状が改善するなどにわかには信じられないが、最も信頼度の高いランダム化比較試験においても、いくつもその有効性が報告されているという。

 帰国後、最上氏自身も、大動脈解離を起こした50代の男性に3日間日記を書いてもらったところ、どんな薬を調整しても170㎜Hgより下がらなかった血圧が、わずか3週間後には100㎜Hg台前半まで下がったという。

 むろん、このやり方は現代医療にとって代わるものでなければ、万人に効くものでもない。既に病気と診断されていたり、自覚症状がある人はまずは医科学的な治療を受けるべきだが、未病の人や薬などの現代療法で効き目のない人が上積みの効果を期待することができるのだという。

■1日20分、三日坊主でもOK

 ではなぜ、書くことが健康につながるのか? 

「心と体はつながっていて、精神的ストレスが身体面にさまざまな悪影響を及ぼします。例えば肉親の死別や離婚などの悲しみは不眠や疲労感、虚脱感となって表れ、それがホルモンバランスの崩れや内臓疾患につながることは多くの人が経験します。書くことは、普段抑えられている自分の心の奥底にある感情に触れることになり、その感情が解放されることで、精神的ストレスが和らぐのです。その結果、自律神経や内分泌、免疫のバランスが整って、病気や体調不良が改善されるというわけです」

 本来なら家族や親しい友人と素直に話せればいいのだが、たとえ家族の前でも建前重視で本心を隠すことが美徳とされる日本では、むき出しの感情をぶつけることは難しい。そのため、自分しか見ない日記に書くことがその代用になるという。

 では、日記にはどんなことを書けばいいのか?

「内容は何でも構いませんが、自分の奥底の感情を素直に文字にすることが大切です。例えば、『上司のバカ野郎』は表層的な感情ですので効果は上がりにくい。もっと下にある『なぜ上司はオレのことを理解してくれないのか。オレは悲しい』という深い感情を文字にすることが大切です」

 もちろん自分しか見ない日記だから誤字脱字、文脈なんて気にしない。まずはつらかった、悲しかった、うれしかった、悔しかったことを自分の本音の感情を探りながら書きつづることだ。一時的には不快な作業だが、苦痛な感情を書いた後、ふっきれたような楽な気持ちになれたら合格だ。

「手書きは苦手」という人はパソコンでブログを書いてもいい。欧米の研究ではその効果も実証済みだという。ただし、書くのは1日20分程度にとどめること。それ以上は書いてはいけない。

「一気に書き進めると継続しなくなりますからね。“三日坊主”でも効果はありますから、3日は続けるようにしましょう。このやり方は普段、我慢強い人や感情を抑え込んでいる人はとくに効果が上がります」

 自分の奥底の感情に耳を傾け、それと向き合って自分自身で昇華させて、病気を予防し改善する。これぞ、いま求められている知的健康法ではないか。

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