Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

石田信之さんは手術8回 できやすい重複がんの組み合わせ

石田信之さん
石田信之さん(C)日刊ゲンダイ

 受けた手術の回数は8回に上るそうです。特撮ヒーロー「ミラーマン」で主人公を演じた俳優の石田信之さん(68)はがんで闘病中で、2014年2月の大腸を皮切りに胃と肝臓も切除。再発時の手術を含めると、8回だそうです。原作と脚本を担当した朗読劇の報道とともに、闘病の様子が改めて報じられ、驚かれた人もいるでしょう。

 13年の夏ごろから腹痛、骨盤の痛みなどが悪化。かかりつけ医から総合病院を紹介され、翌14年2月に大腸がんが発覚し、すでに肝臓に転移していたほか胃にも腫瘍が。付き添った娘さんは「ステージ4で余命3カ月」と宣告されたとか。大腸、胃、肝臓の手術を経て今や4年超。余命宣告を大幅に超えて、元気に活躍されています。

 石田さんはがんを「インベーダー」にたとえ、不屈の精神で「退治していこうと決意した」のがよかったのでしょうが、なぜ度重なるがんを克服できたのでしょうか。皆さん、疑問に思われるはずです。

 ブログなどによると、肝臓がんは大腸がんからの転移で、胃がんはまったく別に発生したものでした。つまり、大本のがんは大腸がんと胃がんの2つ。このような別々のがんを重複がんといいます。

 転移がんは、大本のがん細胞の一部が流れ着いたもので、その性質は元のがんと同じ。石田さんのケースでは、肝臓がんは大腸がんの性質を受け継いだと考え、肝臓がんの治療は原発の大腸がんの治療を踏まえます。

 ポイントは、最初のがんが大腸だったこと。一般に進行がんは手術をせず、放射線や抗がん剤で治療しますが、大腸がんは別で、転移があっても少数なら積極的に手術をします。珍しいがんなのです。

■胃と大腸は10%、もう一方も検査を

 ジャーナリストの鳥越俊太郎さん(78)は05年に大腸がんを手術で克服したのに続き、肺や肝臓への転移も切除。転移するたびに手術を繰り返し、完治しています。胃がんや肺がんのステージ4だと、そうはいきません。大腸がんは、進行しても可能なら手術。ぜひ、皆さんも頭に入れておいてください。

 石田さんも、そんな大腸がんの特性から、大腸と肝臓の腫瘍を切除されたのでしょう。胃がんも切除したことから、胃がんは恐らく早期だったと思われます。つまり、大腸がんの発生からかなり時間が経過して、新たに胃がんができたと考えていいでしょう。

 大腸がんと胃がんの重複は報告によって3~10%。大腸がんの方は、念のため胃がんの検査もすべきですし、逆もまたしかりです。「咽頭がんと食道がん」「喉頭がんと肺がん」の重複も珍しくありません。どちらかのがんが見つかったら、もう一方のがんを想定した検査を受けておくべきです。

 がんの数が多いと、怖いかもしれませんが、1個でも複数でも、がんは早期発見、早期治療に尽きます。早期なら、その分、根治できる可能性が高まるのです。がんをインベーダーに見立てて、見つけたらすぐに治療する積極的に闘う姿勢は、重複がんの治療には、きわめて有効。

 鳥越さんのケースもありますから、あきらめないことです。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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