がんとは何か

オプジーボでも話題 免疫チェックポイントが注目されるわけ

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写真はイメージ(C)PIXTA

 私たちはウイルスや細菌などの異物を免疫細胞で認識・排除することで健康を維持している。

 その一方で、免疫細胞が自分自身の細胞を攻撃しないため「免疫寛容」と呼ばれる仕組みがある。

 例えば、異物のみを認識・記憶して適切に攻撃するT細胞は、T細胞がつくられる胸腺で選別される。自分自身の細胞を攻撃しかねない自己反応性T細胞を細胞死(アポトーシス)させるためだ。

「負の選択」と呼ばれるこのシステムは、自分自身の細胞に多少の変異があっても、寛容な態度を取り続けるT細胞だけを生き残らせる。そうでなければ、免疫細胞が自分の細胞を異物と認識して攻撃し、アレルギーや関節リウマチなど慢性的な自己免疫疾患を引き起こす。国際医療福祉大学病院内科学の一石英一郎教授が言う。

「しかし、このシステムも完全ではありません。そのため自己反応性T細胞や過剰に活性化したT細胞を抑え込むための、別の仕組みが用意されています。そのひとつが免疫チェックポイント機構です。この機構に関わる分子のことを免疫チェックポイント分子と言い、最初に発見されたのがCTLA―4です。この分子は免疫のブレーキ役で、これまでに複数の種類が見つかっています。ノーベル医学生理学賞の受賞で話題のオプジーボという薬は、PD―L1やPD―1などの免疫チェックポイント分子に作用する薬なのです」

 例えば、PD―L1とPD―1には鍵と鍵穴のような関係がある。

 攻撃先の目印(抗原)を提示するT細胞は攻撃を始めてしばらくするとPD―L1という鍵を細胞表面に出現させる。

 一方、自己反応性のT細胞や過剰活性しているT細胞は、その表面に鍵穴となるPD―1という分子を出す。両者が結合すると免疫の働きにブレーキがかかる仕組みだ。

「がん細胞はこの仕組みを利用して免疫細胞からの攻撃を逃れ、成長しているのです。つまり、T細胞が攻撃を仕掛けて、しばらくしてブレーキ役の鍵分子が出てくると同時に、がん細胞やその周りの間質細胞から鍵穴分子を多数出現させてT細胞のがん細胞への攻撃を中止させるのです」

 オプジーボは、そのシステムを阻害させて、免疫細胞によるがん細胞への攻撃を再開させる薬なのだ。もちろん、こうした働きは免疫が果たすほんの一部に過ぎない。

 免疫には異物を攻撃するT細胞の他に、NK細胞、樹状細胞などがあり、攻撃を抑制する制御性T細胞や骨髄由来免疫抑制細胞といった免疫抑制細胞がある。免疫抑制細胞に影響を及ぼす間質細胞も存在し、これらが複雑に絡み合い、がん細胞へ影響を与えているのだ。

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