意外に知らないホルモンの実力

【パソプレッシン】尿量の調整など重要な役割を果たす

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 脳の視床下部で作られ、その下にある下垂体後葉から分泌される「パソプレッシン」というホルモンがある。別名「抗利尿ホルモン(ADH)」とも呼ばれ、腎臓に働きかけて尿量を調節する重要な役割を果たしている。東京都立多摩総合医療センター内分泌代謝内科の辻野元祥部長が言う。

「脱水になると体をめぐる血液量が減少しますが、それを頚動脈や大動脈にある『圧受容体』というセンサーが感知し、視床下部に伝えます。また、脱水で血中の塩分濃度が上昇すると、視床下部自体の『浸透圧受容体』もシグナルを感知します。するとパソプレッシンの分泌が増加し、腎臓での水の再吸収を促進して尿量を減少させ、脱水の進行を食い止めようと働くのです」

 逆に、水分を過剰に取り過ぎたあとは、パソプレッシンの分泌が低下し、尿量が増加するという仕組みになっている。通常、成人の1日の排尿量は平均1~1.5リットル程度だが、「尿崩(にょうほう)症」という病気になると1日の排尿量が3~10リットルと増加し、多飲多尿になる。この病気の発症にもパソプレッシンが関係する。

「尿崩症には原因不明(特発性)もありますが、約60%は下垂体の腫瘍などの病気や脳外科手術のダメージによって起こるパソプレッシンの分泌不全です。また、脳腫瘍や脳卒中などの影響で過剰分泌を起こすと『ADH不適切分泌症候群(SIADH)』になる。この病気は、体内に不必要に水がたまり、水中毒(低ナトリウム血症)を引き起こします」

 治療では、尿崩症にはパソプレッシンと同じような働きをする薬を使い、SIADHにはパソプレッシンと腎臓の受容体との結合を妨げる薬が用いられている。

 パソプレッシンは男性ホルモンが増えると分泌が高まる関係性があり、男性の脳に対する作用には感情的に「縄張り意識を高める」「仲間以外への攻撃性を高める」といった男性仕様の働きをするとされている。そして面白いのは、男性の家庭生活に関係している可能性があることだ。

「海外の研究で、男性において脳のパソプレッシン受容体に影響する遺伝子の一部が変異している人は、結婚生活に問題を抱えている率が高いという報告があるのです。それでパソプレッシン受容体の働きが悪いと、浮気や離婚率が高まるという説もあります。もちろんそれだけで決まるものではありません」

 最近の研究では、パソプレッシンの働きが悪いと「時差ボケ」が起こるという報告もあるという。

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