Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

松浪健四郎さんはステージ1 厄介な膵臓がんも0期なら治る

松浪健四郎さん
松浪健四郎さん(C)日刊ゲンダイ

「悲しきかなちょんまげがなくなってしまいました」

 このご時世にちょんまげなんて、と驚いたかもしれませんが、日体大理事長の松浪健四郎さん(72)のことです。先月末に出席された日体大柔道部の祝賀会で、がんであることを公表。そのための抗がん剤治療の副作用で、毛が抜け、トレードマークを失ったと報じられました。

 当時のスポーツ紙などには、激ヤセした写真も掲載されたことから、ネットなどには重病説も飛び交っていますが、本人は「大したことはない」と一蹴しています。

 どんな病状かというと、今年5月に前立腺がんが見つかり、ホルモン治療を受け、その後、リンパ腫も発覚。そのリンパ腫は転移ではなく、別のがんで抗がん剤治療を受けたとのこと。その治療途中に膵臓がんも見つかったそうです。3つのがんはいずれも早期で、膵臓がんもステージ1ということから、体調は心配ないということなのでしょう。

 前立腺がんには、低リスク、中間リスク、高リスクの3つのタイプがあり、低リスクなら何も治療せず様子を見る「待機療法」も可能。がんの中では、比較的穏やかですが、待機療法が選択されず、発言内容やホルモン療法を受けていることなどから推測すると、中間リスクでがんが前立腺内にとどまっているのでしょう。

 もう一つのリンパ腫はとても種類が多いのですが、治療の進歩が目覚ましい。どの種類か分かりませんが、種類によっては十分完治が見込めるでしょう。

■糖尿病の人は超音波内視鏡を

 そうすると、気になるのは、やっぱり膵臓がんです。9月に発表された最新データによると、膵臓がんの3年生存率はステージ1で約51%と半数を超えますが、ステージ2でほぼ半減。全体で約14%です。胃がんや大腸がんは全体で7割前後ですから、膵臓がんの厳しさは歴然ですが、それでも早期なら治療効果がうかがえます。

 では、膵臓がんを早期発見するには、どうすればいいか。そこが、最大の関心事でしょう。膵臓がんを見つけるための手軽な検査は、腹部超音波検査ですが、胃の後ろにあって十二指腸や肝臓、大腸などに囲まれているため、見つけにくいのが難点でした。

 しかし、広島・尾道で膵臓がんを早期発見するプロジェクトが行われ、その結果、胃カメラの先端に超音波がついた超音波内視鏡なら、厄介な膵臓がんを高確率で早期発見できることが分かりました。口から挿入した内視鏡で胃の辺りから膵臓にエコーを当てて病変をチェックします。この方法だと、ステージ1よりもっと早期の「0期」も発見でき、0期なら完治も期待できるようになったのです。

 膵臓がんには、いくつかのリスクがあり、一番は糖尿病。糖尿病の人は1年に1回、超音波内視鏡検査を受けるといいでしょう。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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