認知症と診断されたら肝臓の検査を…肝性脳症の疑いあり

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 認知症だと思っていたら、実は“治療可能”な肝臓病――。日本大学医学部内科学系消化器肝臓内科学分野の神田達郎准教授に話を聞いた。

 肝臓病は一般的に、ウイルス、アルコール、肥満、薬物などの原因によって、「肝炎→肝硬変→肝がん」と進んでいく。

「ところが、肝硬変や肝がんに至っても、自覚症状がゼロの人は多い。別の病気で検査をしたら、血液検査の数値が悪く、精密検査で肝がんが見つかった、というケースはよくあります」(神田准教授=以下同)

 なぜなら、肝臓は「沈黙の臓器」だからだ。自覚症状が出てくるのは、相当進行してから。健診で「肝機能の数値が悪い」と言われても、症状はないので、病院に行かない人が珍しくない。

「そもそも、健診の数値の設定は緩め。厳しく設定すると、かなりの人が引っかかるからです。再検査と言われたら、思っている以上に肝臓病が進んでいると思うべき」

 自覚するかは別にして、肝硬変に進んでから徐々に出てくる肝臓病の症状は主に、黄疸、腹水、上部消化管出血などの出血傾向、感染症、そして肝性脳症の5つがある。このうち肝性脳症は認知症と非常に似通った症状であり、認知症と誤診されるケースが少なくない。認知症のガイドラインにも「認知症との鑑別が必要な疾患」と記載されている。

「肥満の増加から、アルコールを摂取しなくても脂肪肝炎を起こすNASH(非アルコール性脂肪性肝炎)が増えており、認知症と肝性脳症の鑑別は特に注目されています」

 肝性脳症は、肝硬変による肝機能低下で、アンモニアが解毒されずに血中濃度が増加。肝臓や、その周辺にできた側副血行路という新生血管を介してアンモニアが全身に回り、脳に達して脳神経細胞機能が障害される。

 さらに、血中アミノ酸のバランスが崩れて神経伝達を阻害し、脳に影響を及ぼす。これらによって、「時間・場所が分からなくなる」「物の取り違え」「お金をまく、化粧品をゴミ箱に捨てるなどの異常行動」「眠りに陥りがちで、うとうとしている」などの症状が表れる。

「肝性脳症は症状の程度によって1~5度に分類され、認知症と似た症状が出てくるのは2度以降です。1度は“潜在性肝性脳症”といわれ、鑑別診断が非常に困難。この潜在性肝性脳症の20%が半年以内に2度へ進むとされています」

■肝臓病なら医療費助成制度もある

 かつては、肝性脳症を含む肝硬変の症状が見られたら、「余命数カ月」といわれた。ところが、治療は進歩している。

 一昨年には、肝性脳症によく効く薬が認可され、打つ手が早ければ症状が消え、再発もしにくくなった。

 だからこそ、重要なのは「認知症と診断され、肝性脳症が見逃されている」ケースを回避することだ。認知症を疑う症状が見られた場合、もし、肝機能の検査を長い間していないようなら、血液検査などで確認すべき。

「肝硬変のほかの症状についても、治療可能になっているものは多い。黄疸にはまだ治療薬はないですが、それ以外の腹水、出血傾向、感染症には、よく効く治療薬がある。肝硬変そのものの治療もかなり進んでおり、10年単位で寿命が延びる人もいる。加えて、新薬が毎年のように登場しているので、決して諦めないで治療を受けてほしい」

 なお、肝臓病は病態によってさまざまな医療費助成制度がある。肝臓専門医がいる医療機関の専門窓口や、住んでいる自治体の障害福祉担当窓口に相談するといい。

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