がん発症の妻にしてあげた10のこと

<1>ヌードを撮る できあがりを妻はとても喜んでくれた

小宮孝泰さん
小宮孝泰さん(C)日刊ゲンダイ

 夫婦で過ごしたマンションに初老の男がひとり。一緒にクリスマスを祝う相手はいない。最愛の妻にがんが発症したら、夫は何をしてあげられるのか。2012年10月31日、14歳年下の妻・佳江さんを見送った小宮さんが彼女にしてあげた10のことを紹介する――。

 90年夏、久米島のテレビのロケで佳江夫人と出会い、翌年に結婚。新郎36歳、新婦21歳だった。

 だが、31歳で佳江さんに乳がんが見つかる。

「妻の乳がんを知ってから、彼女のために、私に何ができるのだろうかとあれこれ考えました。ふと思い付いたのが『ヌード写真』でした。突拍子もないと思うかもしれませんが、当時、ある若手女優さんがヌード写真を出して、それに対して揶揄するような声が上がっていたのです。ところが、その時、舞台でご一緒した女優の大空真弓さんが『女優は若いうちに脱いだ方がいいのよ。きれいな体は見せなくちゃ』と、その若手女優を激励していた。それがとてもすがすがしいような気がしたのです」

 佳江さんに「ヌードを撮ってみないか」と切り出すと、意外にあっさりと受け入れたという。

「乳がん発症から1年が経つか経たないかぐらいでした。素直な感じで『それいいね』という返答でした。今の時代は部分摘出が可能ですが、それでも乳房の形が変わってしまうことに変わりはない。これは直接、本人に聞いたわけではありませんが、女として生まれたからには……という気持ちもあると思った。こう言っては何ですが、妻はスタイルも悪い方ではなかったし、僕と一緒にお風呂に入る女性でしたから、裸になることもいとわないだろうと」

 懇意のカメラマンT氏に2人で撮影を頼みに行くと、当然ながら奇妙な申し出に戸惑っていた。

「『実は乳がんで……』と事情を説明すると、『そういうことなら全面的に協力しよう』と快諾してくれ、率先してロケ地まで探してくれました。当初はスタジオ撮りも候補に挙がっていたと思いますが、『いいや、そうじゃない。海で撮ろう』となって6月の早朝に三浦海岸で撮影したのです。人が来ちゃうとやはりマズいので、撮影時間は1時間もなかった。朝日に向かって美しく立つ姿を今も思い出します」

 出来上がった写真を見て佳江さんの反応はどうだったのか。

「どんな言葉だったかは忘れてしまいましたが、とてもうれしがっていました。ただ、その写真が妻の本棚の中に見つからないのです。この家のどこかにはあるかもしれないけど、もしかしたら引っ越しの際のドサクサでなくしてしまったのかも。思い出の写真は、今も彼女の本棚で6月の海の風に吹かれているということでしょうか」

 ◇  ◇  ◇ 

 おそらく生前の佳江さんが隠してしまったに違いない。記憶の中に思い出を焼き付けさせるために。(※編集部注)

 =つづく

小宮孝泰

小宮孝泰

1956年、神奈川県小田原市生まれ。明治大学卒。80年、渡辺正行、ラサール石井と「コント赤信号」でTVデビュー。91年に佳江さんと結婚。2001年、31歳の佳江さんに乳がん発症。12年に永眠。今年9月に、出会いから別れまでの出来事をつづった「猫女房」(秀和システム)を上梓。

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