歯周病は別名“糖尿病の合併症”知っておきたい怖さと予防法

全身の病気に関係
全身の病気に関係

 糖尿病やその予備群にとって冬は危険な季節だ。体を動かす機会が減るのに飲食を伴うイベントが増えて血糖が上がりやすいからだ。それは糖尿病の病状を進めるだけでなく、体の免疫力を弱めかねない。だからこそ風邪やインフルエンザなどといった感染症への警戒が必要なのだが、同じ感染症で全身の病気と関係している歯周病へのケアを忘れてはいけない。「八重洲歯科クリニック」(東京・京橋)の木村陽介院長に聞いた。

 歯周病は、歯周病菌感染による慢性の炎症性の病気だ。40歳以上の半数がかかり、年齢とともにその割合が増えていく。歯の表面に付着した歯垢(プラーク)の中の菌が歯と歯肉のすき間の歯周ポケットで増殖。歯肉に炎症を起こし、歯を支える歯槽骨を溶かす。普段は自覚症状がないまま支えを失った歯がポロポロと抜けていくため、歯周病は成人が歯を失う最大の原因となっている。

「歯周病は糖尿病の合併症といわれるほど糖尿病と関わりが深い病気です。糖尿病の人はそうでない人に比べ2・6倍も歯周病になりやすい。血糖値が高くなる冬は糖尿病予備群の人が糖尿病を発症する可能性が高まるだけでなく歯周病にもなりやすい季節なのです」

 歯周病になると血糖値は上昇する。歯周ポケットの炎症により、歯周病菌の内毒素炎症物質が血管を通して全身にばらまかれ、血糖を下げるインスリンの働きを弱めるからだ。糖尿病を発症したばかりの人でも歯周病を合併すれば血糖値が上がり、糖尿病は一気に悪化する。

「歯周病が怖いのはそれだけではありません。糖尿病やその予備群はすでに脳や心臓の血管病のリスクを抱えていますが、歯周病はそれをさらに高めます。心筋梗塞や脳卒中などを引き起こす動脈硬化は、肉中心の不適切な食生活やストレス、運動不足などの生活習慣が原因といわれてきました。ところが近年、歯周病菌などの感染に注目が集まっています。感染の刺激により動脈硬化を誘う物質が分泌され、血管内に粥状の脂肪物質が沈着。血液の通り道が細くなるほか、その血管内沈着物がはがれて血栓となって飛び血管を詰まらせるのです」

 実際、歯周病のある人は、ない人に比べ2・8倍も脳梗塞になりやすいという。重度の歯周病の人はそうでない人に比べて2・48倍、心筋梗塞になりやすいという米国の報告もある。

■全身の病気に関係

 歯周病は胃がん、関節リウマチ、肝硬変や肝臓がんに発展するNASH(非アルコール性脂肪肝炎)、アルツハイマー病などに関係しているほか、高齢者の命取りになる誤嚥性肺炎にも大きくかかわっている。歯周病菌は誤嚥性肺炎の原因菌ともいわれている。

 また、歯周病は妊娠中の女性がかかりやすく、胎児に影響を及ぼすこともわかってきた。

「妊娠中の女性が歯周病にかかりやすいのはホルモンのバランスが崩れて歯肉が腫れやすくなるほかに間食も増え嘔吐反射の高進による歯磨きの減少があり、エストロゲンと呼ばれる女性ホルモンが特定の歯周病菌の増殖を促すからです。またプロゲステロンというホルモンが炎症のもとになる物質を刺激することもその理由です。いずれにせよ妊娠中の女性が歯周病にかかると早産による低体重の子供が生まれたり流産になったりするリスクが高くなるといわれています。そのリスクは高齢出産やお酒などよりもはるかに高いのです」

 では、歯周病を予防するにはどうすればいいのか?

「基本は歯磨きですが、中高年は既に歯周ポケットが深く、そこに歯垢や歯石が沈着している場合は、頑固な歯石には歯磨きだけでは対抗できません。定期的に歯科医院に通い、歯垢や歯石を取ってもらうことです」

 歯を磨く前にフロスで歯と歯の間の食べ残しを除去する。その後、歯と歯茎の間をしっかり歯ブラシを入れてブラッシング。睡眠中は唾液の分泌が減り、口腔内の雑菌が多く繁殖する。寝る前の歯磨きは入念に行う必要がある。

 洗口液を使う人もいるが、歯根面に付着した歯周病菌は、細菌の塊であるバイオフィルムで覆われている。その上からいくら洗口液を使っても、歯周病が完治するとは思えない。

「バイオフィルムは歯周病菌を守るバリアーの働きをしています。これをまず取り除くには機械的にこすり取らなければ無理。洗口液はあくまでも歯肉の上で効果を発揮するもので、歯周病は治しません」

 これからは深酒をして歯を磨く暇がないということがないようにしたいものだ。

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