顎の疲れや歯の痛み…高齢者の口元異変に潜む意外な病気

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 口をもぐもぐさせる、舌を出したり引っ込めたりする、歯を食いしばるーー。老人ホームなどでよく見かける光景で、高齢者特有の動きのように思える。しかし、病気が隠れていることがあるという。「八重洲歯科クリニック」(東京・京橋)の木村陽介院長が言う。

「歯がむずがゆい、歯が痛い、入れ歯が合わない、顎が痛い、疲れる、と訴える人は顎関節症などと診断されがちですが、そうした患者さんのなかに、実は口舌ジスキネジアではないか、と疑われる人もいるのです」

 ジスキネジアとは自分の意思とは無関係に体のどこかが勝手に動いてしまう不随運動の総称。「口舌ジスキネジア」は、そのなかでも口周囲の顔面筋、舌筋、そしゃく筋に、持続して同じ動きを早く繰り返す不随意運動を指す。口舌ジスキネジアか否かを判断するには、頬に手を当てて、咬筋などの動きを知る必要がある。意識なしに咬筋などが固くなるようなら、この病気の可能性がある。

「口舌ジスキネジアの患者さんは歯をカチカチ鳴らしたり、噛み合わせながら左右に動かすことで歯の表面を摩耗させたり、入れ歯を傷つけたり、口に痛みを感じたりします。なかには舌を動かさないよう歯に押しつけるため、舌先に痛みを訴えられる患者さんもおられます。話をするのに支障はありませんが、しゃべり方が変わる人もいます」

 その原因のひとつに薬の副作用がある。抗うつ剤や睡眠薬、パーキンソン病治療薬などで起こることがある。

「抗うつ剤や睡眠薬による口舌ジスキネジアは、薬を飲み始めてかなり時間が経ってから症状が表れることが少なくありません。なかには、薬をやめた後に症状が表れることもあり、遅発性ジスキネジアと呼ばれています」

 薬以外に中枢性の障害で発症することもあり、統合失調症、アルツハイマー病、認知症、自閉症などさまざまな病態が引き金になるといわれている。ラクナ梗塞もそのひとつだ。

「脳梗塞には、脳の奥底の毛細血管が詰まるラクナ梗塞と、脳の太い血管に動脈硬化などで血栓ができてそれが詰まるアテローム梗塞、心臓などから血栓が脳の血管に飛んできて詰まる、心原性脳梗塞の3種類があります。中高年の患者さんの脳をMRI(磁気共鳴画像装置)で写すと複数のラクナ梗塞が発見されると言われています。ラクナ梗塞は日本人の脳梗塞の半分を占めるもので、症状を起こさないことも多く、無症候性脳梗塞とも呼ばれます」

 ただし、繰り返しラクナ梗塞を起こすと、血管性痴呆やパーキンソン症候群を発症しやすいと言われている。

 顎が疲れる、歯が痛いなどの高齢者の口元の異変は持病の薬や脳の異常が関係している可能性もある。覚えておこう。

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