人生100年時代を支える注目医療

魚料理を週3回以上 うつ病を防ぐ食事で五月病を吹き飛ばす

(C)taa22/iStock

 今年のGWは長期の10連休になるが、この時期に注意しておきたいのが通称「五月病」。新年度の就職、異動、転勤、単身赴任などの環境の変化で緊張や疲れがピークに達し、張り詰めた糸が連休でプッツリ途切れると心身の不調が表れる。症状は、憂鬱、やる気が出ない、疲労感、不眠、食欲不振などで、医学的には「うつ病」や「適応障害」と診断される。

 うつ病の予防や治療は、まず食事と運動で体調を整えることが重要だが、精神疾患と栄養の関係はあまり知られていない。国内の精神栄養学の第一人者である国立精神・神経医療研究センター神経研究所(疾病研究第三部)の功刀浩部長が言う。

「食事が深く関わる肥満や糖尿病などの体の不調は脳機能に影響します。しかし、食事は直接的にも脳に影響しています。それは脳内のモノアミン神経伝達物質(神経細胞が情報伝達に使う物質)や神経栄養因子が作られる過程で必要となる栄養素が不足すると、うつ病の発症リスクが高まるからです」

 うつ病になると、意欲を引き出し、活力のもととなる「ドーパミン」の機能が低下する。そのドーパミンや抗ストレス作用を持つ「ノルアドレナリン」が合成される際には栄養素の「鉄」が必要になる。また、睡眠・覚醒リズムや情動を整えるのに大切な「セロトニン」は、肉や牛乳などに多く含まれる「トリプトファン」を原材料にしている。

「ビタミンDやB」「メチオニン」「葉酸」「亜鉛」などの栄養素も、全般的にモノアミン神経伝達物質の合成に必要という。

「肥満やメタボがうつ病に悪いのは、脂肪細胞が放出する炎症性サイトカインが全身の炎症、脳の炎症(神経炎症)へ波及するからです。その炎症を抑える栄養素が青魚に含まれる『DHA・EPA』という『n―3系脂肪酸』です。魚料理は週3回以上食べるようにした方がいいでしょう」

■食物アレルギーでうつ病リスクが約1.5~2倍に

 これらのうつ病を防ぐ栄養素をまとめると、肉なら「レバー」、納豆を含めた「大豆製品」、「魚介類」「葉物野菜」を中心とした食生活。不足しやすいのは炭水化物(麺類や丼物など)を中心とした食生活だ。

 また、飲料では、できるだけ「緑茶」を飲んだ方がいい。含まれるうま味成分の「テアニン」には、脳をリラックスさせるマイルドな精神安定作用があるという。

 それと、腸内細菌を整える食品も大切。食事に「漬物」「キムチ」「味噌汁」などの発酵食品を加える。朝やおやつで取るなら「ヨーグルト」や「乳酸菌飲料」がいい。これは腸内細菌のバランスが、心の病気にも関係があることが国内外の報告で分かってきているからだ。

 功刀部長らは、昨年11月に1万2000人を対象とした「食物アレルギーとうつ病の関係」の研究結果を発表している。

「食物アレルギーはうつ病の有意なリスク因子となることが分かりました。食物アレルギーのある人は、ない人に比べて約1・5~2倍、うつ病になりやすい。しかも、食物アレルゲン数が多いほど、リスクが高くなります。そのメカニズムは、食物アレルギーが腸で炎症を引き起こし、脳の炎症へと波及して、うつ病やストレス症状を誘発させる可能性が考えられます。アレルギーの原因になる食品の摂取を控えることが、うつ病やストレス症状の予防に有用であると考えられます」

 最近では、日本うつ病学会において「気分障害と栄養」をテーマとしたシンポジウムが組まれるなど、少しずつだが精神栄養学を用いた診療が広まりつつあるという。

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