病み患いのモトを断つ

意思の弱さでも癖でもない ダイエットの成否は睡眠が握る

十分な睡眠なくしてあり得ない
十分な睡眠なくしてあり得ない

「もう少し痩せないと」

 健康診断での医者のアドバイスは、耳にタコだろう。いつも通り晩酌していると、妻が「結果、どうだったの? お酒、控えた方がいいんじゃない」とポツリ。ズシリと響く妻の嫌みに重い腰を上げて……。

 理由はどうあれ、春の健診をキッカケにダイエットを始める人は少なくないだろう。実は、確実に痩せるには、しっかり眠らないとダメなのだ。聖路加国際病院内科名誉医長で、「西崎クリニック」院長の西崎統氏に聞いた。

「ダイエットのほか、生活習慣病の改善には、ほどよく糖質を減らすことが役立ちます。食事を糖質オフにするとしても、ダイエットが成功するかどうかは十分な睡眠なくしてあり得ません。睡眠によって、食欲を左右するホルモンの分泌が変わるのです」

■徹夜でドカ食いしたくなるメカニズム

 肥満大国・米国では、睡眠と肥満の研究が進んでいる。スタンフォード大は、2004年の研究で睡眠時間とホルモン分泌の関係を報告。その結果が興味深い。

 それによると、5時間睡眠の人は、8時間睡眠の人に比べて食欲が湧くホルモン「グレリン」の分泌が15%多く、食欲を抑えるホルモン「レプチン」の分泌が15%少なかったという。短時間睡眠の人は、食欲のブレーキが利きにくい上、アクセルを強く踏みやすいということだ。

 睡眠不足でベッドからはい出て、眠い目をこすって朝食を抜いて出社。眠気が落ち着いた昼ごろに何となく腹が減って、定食屋で注文するのはメニューに関係なく、ご飯は常に大盛り。そんな大食いの下地が、睡眠不足と密接に関係しているのだ。

 米コロンビア大は、睡眠時間と肥満率を調査。4時間以下の睡眠の人の肥満率は、平均7~9時間の人に比べて73%も高かったという。夜中にスマホをいじっているうちに小腹がすいて、何かをつまむ。そんな行動を繰り返すのは、意志の弱さではなく、睡眠不足によるホルモンバランスの変化も影響しているかもしれない。

 米ペンシルべニア大はまた、8時間睡眠と徹夜のグループに分けて、食事の中身を分析。徹夜組は、8時間組に比べて、高カロリー、高脂肪食をチョイスし、1日の摂取カロリーが高い傾向があったという。

 全ての人がそうではないが、高脂肪食やジャンクフードを食べ過ぎて太るのは、睡眠不足のせいといっても過言ではないだろう。

 食べてすぐ寝るのは、睡眠を浅くし、逆流性食道炎の原因にもなる。胸焼けなどで目が覚めるから、睡眠不足を助長する悪循環だ。

 では、何時間睡眠がいいのか。

「睡眠は、時間だけでなく、質も大事ですが、それでも7時間前後は欲しい」

 米ウィスコンシン大の研究では、7時間42分の睡眠時間が最も太りにくいとしている。睡眠不足とともに、やっぱり寝過ぎもよくないという報告もある。

 どんなダイエットをするにせよ、7~8時間の睡眠が重要ということだが、中高年はトイレに起きたりして睡眠が妨げられる。眠りたくても眠れない人はどうするか。

「トイレに起きる原因として、病気なら男性は前立腺肥大、女性は過活動膀胱が考えられます。生活習慣では、飲み過ぎ、食べ過ぎです。高血圧の薬の利尿薬は、朝に服用しますが、飲み忘れて昼や夜に飲むと、トイレに起きる原因になる。まず眠れない原因を改善した上で、それでもダメなら一時的に睡眠薬を使い、睡眠習慣の基礎をつくるといいでしょう」

 さあ、きょうからだ。

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