性感染症最前線

成人なら感染している「キス病」どんな人が発症するのか

幼児期に感染したほうがいい
幼児期に感染したほうがいい

 日本性感染症学会が発行する診断・治療ガイドラインには取り上げられていないが、キスなどの濃厚な接触によってうつることから欧米では「キス病」と呼ばれている感染症がある。

 感染者の唾液に含まれるEB(エプスタイン・バー)ウイルスが原因で発症する「伝染性単核球症」だ。

 感染者といっても、普通は成人のほとんどが乳幼児期に感染していて、抗体を持つので、発症することはない。

 では、どんな人が発症するのか。性感染症専門施設「プライベートケアクリニック東京」(新宿区)の尾上泰彦院長が言う。

「EBウイルスは、3歳までに約80%の人が初感染するとされます。それは、例えば母親が一度口に含んだものを乳幼児に食べさせるなど、母子間の垂直感染です。しかし、乳幼児期に感染しても大半は症状がほとんど表れません。発症するのは思春期以降に初感染した人のうちの35~50%といわれます。ですから大人になるまで感染しなかった人が、セックスで濃厚なキスをしたことが原因で発症することもあり得るのです」

 思春期以降の感染では、飲み回しなどが一番の原因とされている。

 感染してから症状が出るまでの潜伏期間は300日。キス病の主な症状は、極度の疲労感、39度前後の発熱、喉の痛み、首の周囲のリンパ節の腫れ。症状は出ないが半数が脾臓(ひぞう)の腫れ、2割が肝臓の腫れを合併する。

 特別な治療法はなく、発熱や痛みに対して非ステロイド系抗炎症薬(エヌセイズ)などを使った対症療法が中心になる。

 1~2週間ほど安静にしていれば、ほとんどの人は通常の生活に戻れるという。ただし、脾臓が腫れている場合には破裂する恐れがある。1カ月くらい経過して超音波検査で脾臓の大きさが正常に戻るまでは、重い物を持ったり、激しいスポーツは控えることが大切になる。

 EBウイルスは感染後、体内の主に白血球の中にとどまり、感染者は唾液中にウイルスを周期的に排出している。しかし、いつ排出しているかは症状がないので本人にも分からない。

「子育ての時代の変化によって、大人になって異性からEBウイルスに感染し、キス病を発症するケースは増えていると思います。それは市販の離乳食が豊富になったり、虫歯菌の感染を心配したりして、親が口で軟らかくして食べさせるようなことが少なくなってきているからです」

 できれば、乳幼児のうちに感染させてあげた方が、本当は子供のためになる。大人になってからの発症は重症化しやすいので注意しておこう。

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