耳鼻科専門医が警告 あなたの「副鼻腔炎」が治りづらい理由

歯が原因が6割以上
歯が原因が6割以上(C)日刊ゲンダイ

 かつて「蓄膿症」といわれた「慢性副鼻腔炎」は厄介な病気だ。自分でも気づかない鼻詰まりでイライラするし、鼻水も臭う。この病気の子供は集中力が続かず勉強嫌いになることが知られている。普段は意識していなくても風邪をひいたり、花粉症などになったりしたときに鼻詰まり、鼻水、鼻水がのどに落ちて痰(たん)が出る(後鼻漏)、頭痛、顔が腫れて目や頬周辺が痛むなどの症状が強く出る。耳鼻科が診察する病気だが、本気で治すには歯科との連携が欠かせないという。なぜか。耳鼻咽喉科専門医で、「あさま耳鼻咽喉科医院」(茨城県古河市)の浅間洋二院長に聞いた。

「副鼻腔炎は副鼻腔の粘膜に炎症が起き、鼻汁や膿が副鼻腔の中にたまってしまった状態を言います。その原因は副鼻腔の閉塞と副鼻腔に存在する、せん毛の働きが悪くなることです。それを引き起こしているのは鼻から侵入したウイルスや細菌の感染やアレルギーなどによる炎症といわれますが、実は歯の炎症で起きていることも少なくないのです」

 顔の真ん中にある鼻の中にある空気の通路を正式には「固有鼻腔」と言う。副鼻腔はその周りにある閉鎖空間のことを言い、「上顎洞、篩骨洞、前頭洞、蝶形骨洞」が左右2つずつ合計8つに分かれている。副鼻腔は奥で歯や目に隣接しているとともに、いずれも固有鼻腔と一部でつながっている。

「上顎洞は左右の頬の内側、篩骨洞は左右の目の間の奥、その上に前頭洞があり、篩骨洞の奥の方に蝶形骨洞があります。それぞれの内部は空洞で、空気が入っており、薄い粘膜がついた骨に囲まれています。粘膜にはびっしりせん毛が生えていて、異物を排除する働きがあります。こうした構造になっているのは頭部を軽くしたり打撲時の衝撃をやわらげるためです」

 副鼻腔のなかで歯との関係が強いといわれているのが上顎洞だ。上歯の根の先が上顎洞に近いため、歯及び歯周組織の炎症が容易に上顎洞に移行する。とくに小臼歯、大臼歯の虫歯や歯ぎしりなどの物理的刺激から歯髄が感染し、その炎症が上顎洞の洞底を浸潤していくと上顎洞粘膜に炎症が広がり上顎洞炎を併発する。これが放置され、慢性副鼻腔炎になるという。

「歯が原因の副鼻腔炎は医学の教科書にも載っていて歯原性副鼻腔炎と呼ばれています。歯原性副鼻腔炎の症例報告は数多く発表されていて、その頻度は慢性副鼻腔炎の1割程度とされています。しかし、それは歯科や耳鼻科で単純X線写真が診断に使われていた時代の話です。単純X線では粘膜の腫れなどを詳細に見ることはできませんでしたが、いまは被曝量の低い歯科・耳鼻科専用CTが開発され、粘膜を含めた鼻の状態と歯や上顎骨の状態が同時にハッキリとわかります。それで見ると患者さんに自覚がないものを含めると歯原性副鼻腔炎はかなり多い。欧米では慢性副鼻腔炎の原因の6~8割は歯原性との報告もあり、私の患者さんの過去のCT画像を調べてみると、上顎洞、篩骨洞に炎症がある患者さんの上歯に何かしら問題がある方が予想以上に多かったのです」

■歯科医との連携治療が必要

 専用CTの登場でわかったことは他にもある。これまで歯原性副鼻腔炎の原因として上顎洞の炎症のみが注目されてきたが、クリアランス(せん毛による排泄機能)で上顎洞と一筆書きのようにつながっている篩骨洞の炎症は見逃されてきた。ところが上顎洞の炎症を治療した後でも篩骨洞やさらに奥の前頭洞や蝶形骨洞の炎症が残っていて、それが原因不明の頭痛など副鼻腔炎の再発リスクになっているケースも見られるという。

「副鼻腔炎には急性と慢性があります。よく、急性を繰り返すことで慢性に移行するといわれますが、それは鼻の粘膜のせん毛の動きが悪い人を含めた一部にすぎず、慢性副鼻腔炎は別の病気ではないか、という考え方も出てきています。慢性の多くは歯原性であり、急性とは別物という考え方です。私も最初はこの考え方はオカルトではないか、と思ったのですが、実際に私の患者さんのCT画像を調べてみて歯科医との連携がなければ副鼻腔炎は完全には治せないと今では考えています」

 慢性副鼻腔炎の治療は手術をしない保存的治療か手術治療に分かれる。保存的治療は3カ月程度を目安に抗生剤を飲む「薬物治療」、噴霧器を使って直接腹腔に消炎剤や抗生剤などを吹き付ける「ネブライザー治療」、副鼻腔にたまった膿を出して薬を注入する「排膿洗浄」の3種類ある。それでも症状が治まらないときは手術になる。

「もし患者さんの慢性副鼻腔炎が歯原性であれば、保存的治療はもちろん、手術であっても根本治療とはいえません。慢性副鼻腔炎が放置されると副鼻腔内にカビ(真菌)が発生して周囲の骨を溶かしたり、膿汁そのものが副鼻腔の蝶形骨洞や篩骨洞の骨を溶かしたりして目に影響が出て急激に視力を低下させることもあります。そうならないためには、慢性副鼻腔炎と診断された患者さんは必ず歯の診察も同時に受けなければなりません」

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