Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

阪神・原口は3b期 大腸がんは錠剤の抗がん剤で再発予防

阪神の原口文仁捕手、オールスターでは豪快ホームラン!
阪神の原口文仁捕手、オールスターでは豪快ホームラン!(C)日刊ゲンダイ

 がん治療とスポーツとの両立という点で、印象的です。阪神の原口文仁捕手のがん闘病会見が話題を呼んでいます。報道によると、ステージは3bで、進行した状態でした。1月に大腸がんが発覚してから6月に早くも一軍復帰ですから、治療がうまくいったのでしょう。

 大腸の粘膜に発生したがんは、大腸の壁の中を少しずつ深く進行。筋肉を越えて、リンパ節にまで広がった状態がステージ3bです。進行していても、離れた臓器への遠隔転移はなく、治癒は大いに期待できます。

 ステージ3全体の5年生存率は8割弱で、大腸がんは進行していても、ほかのがんに比べて治療成績がいいのです。

■ダヴィンチ手術なら1週間で退院可能

 そこで早期復帰のポイントを探ってみます。1月26日に手術し、1週間後の2月2日に退院。「おへその上下5センチくらいと4カ所」に穴を開けて内視鏡で手術を受けたそうです。入院が短期間で済んだのは、おそらくダヴィンチ手術の恩恵でしょう。

 米国生まれのダヴィンチは、昨年4月に保険適用に。ロボットで人間より細かい手術ができる最新医療も、保険で安く治療が受けられたのはラッキーだったと思います。

 もうひとつは、抗がん剤の副作用の少なさです。副作用の表れ方は患者さんによって違いますが、「気持ち悪くなるとか、吐き気とかは比較的に僕は出なかった」そうで、それなら順調に抗がん剤治療が進められます。

「4週間飲んで、2週間休む」というように、今は錠剤の経口抗がん剤も普及。それを4サイクル続けます。一般に吐き気や嘔吐、食欲不振、口内炎、下痢などの消化器症状のほか、発疹や疲労感などの副作用が知られていて、自覚症状が表れないものとしては白血球や赤血球、血小板などの減少、肝機能の低下もあります。

 血球や肝機能などの数値は細かくチェックしながら抗がん剤治療を続けて、3月には二軍に合流できたのは、治療が順調だったからこそ。抗がん剤の副作用があれば、とてもプロの練習は続けられませんが、大切なのは、これからです。

「5年経過観察して完治といわれたので、まずは自分の体調を見ながら、5年間しっかり定期検査を行いながらやっていかないといけない」

 そう語っているように、今後は再発のチェックがカギです。ステージ3の再発率は30%程度。リンパ節転移のないステージ2でも、20%程度が再発するとされます。術後に抗がん剤治療をプラスしたのは、再発予防が目的なのです。

 原口さんのような経口のほか点滴で、原則6カ月。原口さんは2月6日から7月9日まで、半年に及ぶ補助化学療法をしっかりと完遂。今後は、半年ごとに検査しながら再発チェックを受けることになりますが、原口さんの活躍は同じ病気で闘う人の励みになるでしょう。

【写真特集】阪神・原口、代打で登場豪快2ラン! マイナビオールスターゲーム2019

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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