血管・血液を知る

「血液サラサラ」心筋梗塞予防にどこまで関係しているのか

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 冬は血管が縮み、血液が固まりやすくなる季節です。実際、血の塊(血栓)ができて動脈を塞いでしまい、脳梗塞や心筋梗塞などの病気が増えます。納豆やタマネギなど血液を「サラサラ」にするといわれる食べ物は、これらの病気の予防に良いといわれています。

 俗にいう「血液サラサラ」とは、健康的な血液がよどみなく流れるイメージを表現したものです。人工の毛細血管に流れる血液の成分を拡大観察できる機器(MC―FAN)を使って観察し、円滑に流れる血液を「サラサラ血液」、そうでない血液を「ドロドロ血液」と呼んだものです。生活習慣病や動脈硬化症があると血液はドロドロになるといわれ、「サラサラ」の食品を食べると改善するといわれています。

 しかし、この「サラサラ」は血球を人工毛細血管に流して速度を測定したもので、冠動脈や脳・末梢動脈などの中程度の血管で血栓ができる状態を調べているわけではありません。

 これで分かる血液ドロドロの状態で、本当に心臓血管病に関わる動脈や静脈に血栓ができやすくなるのでしょうか?

 血液は、細胞成分(血球)と、血漿(プラズマ)と呼ばれる液体成分から成り立っています。赤血球は体の隅々まで酸素を運び二酸化炭素を回収する働きがあり、白血球は体内に侵入してきた細菌などの異物から体を守る働きがあります。また、血小板は結合して固まる(凝集)性質によって止血をします。

 血栓は「止血」という体の防御反応が、通常では起こらない血管の中で起きてしまったものをいいます。毛細血管ではなく、中サイズの冠動脈などが動脈硬化やストレスで傷つくと、まず血小板が集まって凝集します。さらに数々の血液凝固因子が反応してできたフィブリンというノリのようなものが赤血球などを取り込み、血小板の塊を補強し血栓ができます。

 この血小板が凝集する能力と凝固の起こりやすさは専門的機器で測定されますが、MC―FANによる測定内容とは違うのです。

 危険な血栓をつくらないためには、人間ドックなどで自分の健康状態を知り、肥満、高血圧などの生活習慣病、喫煙やストレスなどによる動脈硬化症を予防することが大事です。リスクがあれば、バイアスピリンなど抗血栓薬で予防することになります。

 大事なことを無視し、「血液サラサラになっていること」だけを喜んでいてはダメです。

 昨年初めて、この「血液サラサラ」が心臓血管病のリスクを減らすという報告が出ました。血液サラサラで心臓血管病になりにくい人たちがいるとしたら、青魚の脂やタマネギのように、「血液サラサラ」にするだけでなく、血小板凝集や血液凝固も抑えられる食材のおかげかもしれません。

 紛らわしいことに、抗血栓薬も「血液サラサラの薬」と呼ばれることがあります。これはMC―FANで測定した毛細血管の血流ではなく、冠動脈などの普通の血管で血液が固まりにくい状態を表したものです。「サラサラ」という言葉の使い方に混乱がありますので、その使われている意味を確認する必要はあります。

東丸貴信

東丸貴信

東京大学医学部卒。東邦大学医療センター佐倉病院臨床生理・循環器センター教授、日赤医療センター循環器科部長などを歴任。血管内治療学会理事、心臓血管内視鏡学会理事、成人病学会理事、脈管学会評議員、世界心臓病会議部会長。日本循環器学会認定専門医、日本内科学会認定・指導医、日本脈管学会専門医、心臓血管内視鏡学会専門医。

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