70代の女性は3年前、狭心症や不眠症、軽いうつ病などで3つの医療機関に通い、10種類を超える薬を服用していた。あるときから、ふらつくようになって自宅で転倒。その後もめまいのようなふらつきが続き、引きこもりに。やがて寝たきり状態になり、夫の介護を受けて生活していた。
そんな活動制限もあって、うつ病が悪化。「死にたい」と自暴自棄になっていた。それでも、その抑うつ状態やふらつきが薬のせいだとは思いもよらず、医師に訴えたことはなかったが、主治医の転勤で、今の主治医にかわったのが転機となった。
「いくつかの睡眠薬がよくなかったそうです。薬を減らしてもらったら、ふらつきもなくなり、気持ちも明るくなりました。1カ月ほどで歩いて、外出できたのでビックリです。服用している薬は4種類です」(70代女性)
薬の見直しで物忘れの症状が改善。認知症のテストの点数もクリアし、認知症でないことが判明したケースも報告されている。
■75歳以上は24%が7剤以上
社会診療医療行為別統計によれば、7種類以上の服薬は65歳以下で10%だが、75歳以上は24%にアップする。薬の見直しで生活が明るくなる人はかなりいるはずだ。そのチャンスをつかみ取るには、どうするか。医薬情報研究所エス・アイ・シーの医薬情報部門責任者で薬剤師の堀美智子氏は、2つのポイントを挙げている。
「1つは、薬を服用する前と後の体の変化は、どんなものでも気にするようにして、医師と薬剤師に伝えること。たとえばふらつきなら、ふらつきを伝え、新しい薬剤と照らし合わせれば、コリン作用の影響が見つかるでしょう。もう1つは、多剤併用の患者さんは、多くが複数の医療機関にかかっていますから、どの医療機関でも飲んでいる薬、そしてサプリも含めて、すべてきちんと伝えることです」
かかりつけの医療機関は複数でも、お薬手帳はひとつにまとめること。そうすれば、それを見た薬剤師が“異変”に気づきやすいというから、多剤併用による認知症から抜け出すキーパーソンは、薬剤師といえるだろう。「年のせい」とあきらめてはいけないのだ。