90歳現役医師 最強の体調管理

医学的に明確な関係なし 男性ホルモンを補充してもハゲない

医学的に明確な関係はない
医学的に明確な関係はない

 男性ホルモンを補充しても髪の毛はOKなのだろうか?

「単刀直入に『男性ホルモンが多いとハゲますか?』と質問される方は結構います。そんな時は、医学的に明確な関係はありませんが、頭が薄いことを恥ずかしいと思うなんて冗談じゃない、男らしいと自慢すべきですとキッパリお答えしています(笑い)。単純に男性ホルモンが多いとハゲるのなら、男性ホルモンがピークの若い男性はみんな薄毛になる。でもそうとは限りません。脱毛につながるのは男性ホルモンの中でもジヒドロテストステロン(DHT)と呼ばれるものです。毛根にある5αリダクターゼという酵素と男性ホルモンのテストステロンが結びつくと形成されます。DHTはAGA(男性型脱毛症)を引き起こす、つまり毛根をダメにするホルモン。この5αリダクターゼが多い、または活性が強い場合に、DHTが増加し薄毛リスクが高まるのです。ですからテストステロンばかりを責めるのはお門違い。そもそも、男性ホルモンとハゲの関連性は、医学的に明確な証拠はほとんどありません」

 薄毛の原因は、遺伝的なものや生活習慣、いろいろな要素が複雑に絡んでいる。

「少なくとも私のクリニックの患者にハゲの方はおられません。それが何よりの証拠です」

 そしてAGA治療には意外なリスクが潜んでいる。

「AGA治療では脱毛ホルモンであるDHTの生成を食い止めるべく、5αリダクターゼを抑制する薬として『プロペシア(フィナステリド)』が処方されます。それは直接的に男性ホルモンを抑制しないと言われていますが、実際にはAGA治療を受けたために、体調不良、性欲減退、うつに悩んで、私の外来に訪れる若い方がいます。そしてテストステロン値を測ると、やはり下がっている。その方はテストステロン補充治療で元気を取り戻されましたが、奥さまから『そんなことをすると、また髪の毛が抜けちゃうでしょ』と怒られ、治療をストップ。するとまた元気がなくなってしまうという事態に……。最近、元気がないということで相談を受けた患者のM・Kさん(55)のケースでは発毛剤を服用していたということだったのですが、テストステロン投与を行ったところ、元気さを取り戻しました。AGAの治療薬を飲んでも誰もが毛が増えるとは限りません。2年も3年も飲んでも毛の量は変わらないまま、ただ男としての元気さをなくすという、踏んだり蹴ったりの結末もあり得るのです」

 一方、ハゲの比率が高いと言われるアメリカ人のテストステロン事情はどうなのか。

「80年代にデータの比較をしたことがあるのですが、日本男性の方が、加齢でアメリカ男性よりテストステロンの低下が早いという所見になりました。またこれは同時にアメリカ男性の方が加齢者でも元気人間が多いことを示すデータだと思います」

 薄毛治療に励むと、別の落とし穴が待ち受けていることもある。

 (構成=中森勇人)

熊本悦明

熊本悦明

1929年、東京都生まれ。東京大学医学部卒。日本メンズヘルス医学会名誉理事長、札幌医科大学名誉教授。現在は「オルソクリニック銀座」(東京・中央区)で、名誉院長として診療中。近著「『男性医学の父』が教える 最強の体調管理 テストステロンがすべてを解決する!」(ダイヤモンド社)がある。

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