内視鏡医が見た12月の胃袋

表面に浅い潰瘍やびらん…なぜお酒を飲むと胃が荒れるのか

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 いよいよ令和元年も数日で終わりです。最後は仲間内でお酒を飲み年忘れ、という人も多いでしょう。お酒を飲むといつも楽しくてついつい飲み過ぎちゃうという人は、自身の胃袋のことも少し考えて欲しいものです。

 大量にお酒を飲んだ人の胃袋を見ると、浅い潰瘍や出血性のただれ(びらん)、あるいは出血が至るところに見つかります。お酒に含まれるアルコールが胃酸による自己消化を防ぐ胃の粘膜防御機構を壊し、胃粘膜障害(血流障害)を起こすからです。その結果、腹痛や吐血・血便・嘔吐などの症状が表れます。本来、少しのお酒は消化酵素の分泌を増やしたり、胃の血流を良くすることで胃の動きを活発にして消化運動を高進させ、食欲増進にもつながります。

 ところが適量を超えると、消化管に障害を起こします。口から摂取されたアルコールは食道を通り、胃で20%、小腸で残りの80%が吸収され、90%以上が肝臓で代謝されます。肝臓で代謝されたアルコールは、呼気や尿として体の外に排出されますが、その量が多過ぎると、分解しきれなかったアルコールや分解途中に生成されるアセトアルデヒドと呼ばれる毒性の強い物質が、血液を通じて長時間、体内を漂い、粘膜の血流や消化液などに影響を与えるだけでなく、消化管平滑筋内のタンパク質や神経を障害し、消化管の運動機能に影響を与えます。

 お酒を飲んで吐く人がいますが、これはアルコールが胃の内容物の食道への逆流を防ぐための下部食道括約筋を緩めたり、食道の蠕動運動を低下させて胃酸の逆流を引き起こすからです。ちなみに胃酸に曝露された食道は、ただれて食道炎となります。お酒による胸やけというものです。

 昔のドラマで、登場人物がお酒を飲んで血を吐くというシーンを見たことがある人もいるでしょう。それは嘔吐を繰り返すことで食道に圧が加わり、食道下部から胃の入り口(噴門部)の血管が破れ出血し、それが逆流して口から吐き出されるのです。

 お酒をたくさん飲むと決まって下痢になるのは、アルコールを大量に摂取すると、水分や電解質(ナトリウム・クロール)の腸から体への吸収が悪くなり、水分と電解質の排出量が増え、糖や脂肪の分解・吸収も低下するからです。

 胃とは関係ありませんが、大酒飲みの人は大腸ポリープができやすいので気をつけましょう。食生活の偏りなどが原因だといわれています。なお、アルコール依存症の人は食事の偏りに加え、ビタミン吸収障害が見られるため、ビタミン欠乏による脳症・貧血・末梢神経障害が起こります。

 最後に、お酒をたくさん飲む人に気をつけていただきたいのが痔核です。お酒をたくさん飲むと、血液の鬱滞が起こり悪化しやすくなります。これに下痢が加わるとその症状は強くなります。直腸の血管に血液の鬱滞ができて、痔になる人がいますが、その裏にはアルコール性肝硬変が隠れている場合があります。

(国際医療福祉大学病院内科学・一石英一郎教授)

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