進化する糖尿病治療法

超便利な世の中到来で“普通”の生活が肥満を招く

糖度の高い果物も血糖値を上昇させる
糖度の高い果物も血糖値を上昇させる(C)日刊ゲンダイ

 肥満というと「めちゃくちゃな食生活を送ってきたんだろうな」という印象が強くありませんか? 人よりもたくさんの量を食べたり、深夜にラーメンが日常的だったり、焼き肉&大盛りご飯が大好物だったり……。食生活は不規則で、加えて運動不足。肥満は環境的要因が大きいですから、肥満の方の食生活などを聞いていると、「それは、なるべくして肥満になったな」と感じる人が多いのは事実です。

 ところが近年、話を聞いてみると、そう肥満になるとは思えない食生活。しかし肥満……という人が増えています。そういう人には、より詳しく食事内容を聞くのですが、そうやってようやく肥満になった理由が見えてきます。

 たとえば、果物が好きだという人。果物そのものは1日1個、朝や昼に食べる程度なら本来はそう悪くないのですが、食べている果物によっては問題です。

 蜜がたっぷり入っているリンゴや、とても甘いミカンなど、以前は一般に出回っていなかった糖度の高い果物が、ネットなどで安く手に入るようになっています。

 こういったものを頻繁に食べていれば、肥満の原因になりますし、血糖値は上がります。「果物はすべて、ビタミン類が豊富で体にいい」と考えている人もいて、より厄介です。

 ウニやイクラ、白子やあん肝、筋子など、それらがたくさん取れる地域に住んでいる人や漁業にかかわる一部の人は別にして、昔は「日常的に食べるものではない」というのが共通認識でした。ところがこれも、状況が変わってきています。

 ネットで安く現地から取り寄せられる時代ですから……。また、今は白子とあん肝が大量に入った通称「痛風鍋」を比較的リーズナブルに出す飲食店もいくつかあると聞きます。かつての「たまのぜいたく」が、今やそうじゃなくなってきているのですね。

 さらには、ロボット掃除機が複数のメーカーから発売され、安いものも出ています。普通の掃除機を使って部屋の掃除をすれば多少体を動かしますが、ロボット掃除機を使えば、全く体を動かしません。

 スーパーに買い物に出掛けて、両手に重い袋を提げて帰る……というのも最近は回避可能です。多くのスーパーで宅配サービスを行っていますし、これまたインターネットで取り寄せることもできます。

 外食だって、「ウーバーイーツ」という便利なサービスのおかげで、外に出掛けなくてもOKです。今や買いだめしていなくても、さまざまなサービスを駆使すれば、自宅からほとんど出ないで過ごすことは可能なのです。ただでさえ少ない活動量が、より一層少なくなっていきます。今後、ドローンの買い物代行などが普及したら、どうなるのでしょう。高齢者や歩行が困難な障害者、公共交通網が発展しておらず自宅近くに買い物できるところがない場所に住んでいる人にとっては素晴らしいサービスですが、健康な人にとっては、その便利さが生活習慣病のリスクを高めることにつながりかねません。

 糖尿病の患者数は、厚労省の「2017年患者調査の概況」によれば、過去最多の328万9000人。08年以降、増加の一途をたどっています。特別なことをしていない、“普通”に生活しているだけでも糖尿病をはじめとする生活習慣病を発症しやすい現状を考えると、仕方のない結果なのかもしれません。

「チリも積もれば山となる」と言いますが、摂取カロリーに関しては“チリ”が多くなり、活動量に関しては“チリ”が少なくなっています。意識して対策を講じないと、生活習慣病のためにいろいろと我慢しなければならない窮屈な将来が待っています。

 できれば、食生活改善と適度な運動を両輪で。この2つをセットでやれば、「1+1=3」になり、相乗効果で得られるものが大きくなる。逆に食生活改善はやるけど運動はやらない……というようなら、「1―1=0」になってしまうかもしれません。

 人生100年時代、最後まで現役で楽しんで生活したければ、便利さにあぐらをかいていてはいけません。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

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