「38歳の時に、もっと早く検診をしておけばと思った」
今月2日、松山市のホテルでそう語ったのは、女優の仁科亜季子さん(66)です。四国がんセンターなどが開催したがんのセミナーに呼ばれ、4度のがん経験から「元気な明日のために」をテーマに体験談を話したことが、ネットで広がっています。
最初のがんは38歳。何げなく受けた検診で子宮頚がんが見つかったそうです。
幼い子供がいてつらかったでしょうが、がんを乗り越え、今も元気に活躍されています。
子宮頚がんは、ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染が原因のほぼ100%。今話題の新型コロナウイルスにはワクチンがありませんが、HPVにはワクチンがあります。HPVワクチン接種でほとんど予防できるのですが、現在の接種率はわずか0・3%と危機的な状況です。
2010年にHPVワクチンの公費助成がスタート。13年には小学6年から高校1年の女子生徒を対象に定期接種がスタート。ところが、その2カ月後に、厚労省は副反応問題への対応で「積極的な勧奨」を中止して、現在に至っています。
ワクチン導入前の1993年度生まれが20歳時に子宮頚がん発症リスクを1とすると、公的負担でワクチン接種ができた99年度生まれまでの学年は、相対リスクがほぼ0・3に落ち着いています。当時のワクチンは、7割の子宮頚がんを抑えるといわれていましたから、ほぼその通りの結果です。
一方、定期接種ができていたころの接種率は7割ですから、0・7×0・7=0・49。対象学年は、ほぼ半数の女子学生が子宮頚がんにならずに済むことになりましたが、接種率がゼロ近くになったことで、リスクはワクチン導入前の状態に戻っています。ワクチンを接種しないリスクが、明らかです。
そんな状況を受け、実質中止状態を見直す動きが相次いでいます。接種を見送っているうちに、公費負担対象年齢を上回った人などから「われわれにも公費負担を」という声が上がっていますが、HPVはセックスで感染するため、成人女性でセックス体験があると、すでに感染している可能性があり、接種の意味はありません。もし成人女性が接種するなら、HPV感染の有無を調べてからがよいでしょう。
HPVはセックスが媒介するため、子宮以外の部位にも、男性にも感染します。オーラルセックスの広がりで、男女ともに中咽頭がんが急増。ペニスや肛門、膣、外陰部などもがんになることがあります。ちなみに性器が外部に露出しているペニスは、皮をむいてしっかり洗うことで、感染リスクを抑えることができる可能性があります。
男女にリスクがあるため、欧米では男性も女性同様に公的補助になっている国もあるのです。法定接種の対象年齢で接種しないと、総額5万円ほどの自費に。高額負担を強いられるので、接種しないリスクは、肉体的にも経済的にも重くなります。
厚労省は「積極的勧奨をしない」ことの責任がありますから、無料接種の対象年齢の変更も検討すべきでしょう。
Dr.中川のみんなで越えるがんの壁