上皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

「おなら」が臭い人は心臓疾患にかかりやすくなる可能性

順天堂大学医学部心臓血管外科の天野篤教授
順天堂大学医学部心臓血管外科の天野篤教授(C)日刊ゲンダイ

 近年、「腸内フローラ」(腸内細菌叢)の研究がさらに進み、腸内細菌がさまざまな病気やアレルギーに関わっていることがわかってきました。腸内細菌は人間の腸内に100兆個ほど存在していて、善玉菌、悪玉菌、日和見菌といったさまざまな細菌がバランスをとりながら生態系を形成し、われわれの健康に大きく関わる役割を担っています。糖尿病、がん、アレルギー疾患、うつ病との関連をはじめ、心臓疾患にも関係しているという報告がいくつも出されています。

 腸内細菌のバランスが崩れると、主に余ってしまった動物性タンパクを腸内細菌が代謝して「TMAO」(トリメチルアミン―N―オキシド)という物質を産生します。このTMAOの血中濃度が高いと動脈硬化が進み、心血管イベントの発症が促進されることがわかっているのです。マウス実験では、TMAOの濃度を抑える物質を投与すると動脈硬化の促進を抑えられたと報告されています。動脈硬化は狭心症や心筋梗塞といった心臓疾患の代表的な要因ですから、腸内細菌のバランスが崩れると心臓疾患を招きやすくなってしまうということです。

 他にも、心不全の患者60人と健常者20人の便を調べた研究では、心不全患者の便には病原性が高い細菌が増えていて、心不全の病状が悪い患者ほどその傾向が強いことがわかっています。やはり、心臓にとって腸内細菌のバランスは重要なのです。

■アンバランスな食生活による便通異常が病気につながる

 腸内環境を整えるために大切なのが「食生活」です。いわゆる生活習慣病がベースで起こる心臓疾患は単一の要因で発症するケースはほぼありません。高血糖、高血圧、高コレステロール、肥満の4つのリスク因子のいずれかが重なって発症する場合がほとんどで、重複するリスク因子が多ければ多いほど発症しやすくなります。糖尿病は単一で心臓疾患を招くリスクはありますが、やはり多くは高血糖だけでなく、いくつかの因子を抱えているのです。

 高血糖、高血圧、高コレステロール、肥満といった因子は、いずれも食生活と大きな関わりがあります。とりわけ「過食」が絡んでいるケースが多いものです。2型糖尿病や肥満は糖質の過剰摂取やドカ食いが関与していますし、高コレステロールも偏った食生活が要因になります。高血圧も塩分の取りすぎが関わっています。

 そうした食生活のアンバランスさは、生活習慣病に加えて「便通異常」を招きます。生物は食べたものをエネルギーに変換して生命活動を維持しています。エネルギー変換して余った分は、体内で発酵させてから体外に排出します。腸内細菌はこうした栄養の摂取と排出のサイクルを整える働きをしています。

 ところが、腸内環境が乱れていて排出がうまくいかないと、食べたものの余剰分が腐敗した状態で体内に残ってしまいます。そうなると、栄養素の吸収が不完全になったり、体内に炎症が起こって、がんや動脈硬化の要因になってしまうのです。

 腸内細菌のバランスが整っていて腸内環境が良好であれば、排出もスムーズです。いちばん簡単な判定法は「おならが臭いかどうか」です。臭い場合は腐敗したものが腸の中に残っていて、毒素=メタンガスが産生されているということです。反対に腸内環境が良い人は、おならがまったく臭くないケースもあります。

 おならが臭い人は、食生活を見直してアンバランスさを改善し、腸内環境を整えることをおすすめします。それが、生活習慣病を防いだり、心臓を守ることにもつながります。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

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