コロナ対策“不要不急の外出自粛”で高齢者の健康が蝕まれる

「外に出るな」と言いますが…
「外に出るな」と言いますが…/(C)日刊ゲンダイ

 新型コロナウイルス感染症(COVID―19)の拡大で、「不要不急の外出自粛」の要請の声が一段と高まるなか、心配なのが健康への影響だ。とくに高齢者は長期間、自宅に閉じこもることで、筋力低下や精神的ダメージにより健康を損ないやすく、命を縮めることにもつながりかねない。東邦大学名誉教授の東丸貴信医師に聞いた。

「一番の心配は、筋肉が減少して体力が落ちることです。高齢者は日々体を動かすことで、かろうじて筋肉量や体力を維持しています。また、骨に負荷をかけたり筋肉を伸縮させることにより、一酸化窒素(NO)やさまざまなホルモン様物質が作られ、血管が拡張して心臓の働きが良くなります。そして、血圧の上昇や万病のもとの慢性炎症が抑えられ、心臓血管、肺、脳神経など内臓の働きを良くして運動能力を維持しています。そのリズムが狂うと簡単に体力と運動機能が落ちてしまいます。困ったことに年齢によっては一度失った筋力や体力は取り戻すことができず、その影響はその後の生活に大きく影響します」

 欧米の研究によると、運動をしない期間がわずか2週間続いただけで筋力と筋肉量は大幅に低下するという。その影響は若者でより大きいが、高齢者は失った筋肉を取り戻すのに多くの時間が必要になると報告している。

「高齢者の筋力低下や運動能力低下はふらつきの原因となり、骨折リスクを高めます。とくに2型糖尿病の人は注意が必要です。寝たきりを招く大腿骨頚部の骨折が2型糖尿病でない人に比べて1.3~2.8倍に高まるという報告があるからです。また、高齢者は屋内にいるから安全というわけではありません。65歳以上の事故の77%は住宅内で起きていて、階段を踏み外すなどの転落が30.4%、夜間トイレに行く際などの転倒が22.1%という報告もあります。高齢者の長期間の外出自粛はこうした事故に拍車をかけないとも限りません」

■強い怒りから脳梗塞や心筋梗塞も

 高齢者が体を動かさなくなると、骨や筋肉が衰えるだけではない。脂肪が増え体重も増加する。血糖値は乱れ、血圧も高くなる。加齢で弱った心臓への影響もある。

「世界52カ国2万9000人以上が参加した『INTERHEART研究』ではウオーキングやヨガなど軽度の運動をする人は13%、昼間のガーデニングなど適度の運動をする人は24%、心臓発作のリスクが低いと報告しています。逆に言えば、普段こうした運動をしている人がしなくなると、そのぶん心臓に負担がかかるということです」

 外出が減り、足を動かさないでテレビを長時間見続ける生活が定着すると、静脈血栓塞栓症(エコノミークラス症候群)で亡くなるリスクが高くなる。5時間以上では2.5倍に上るという。脚などにできた深部静脈血栓が血流に乗り、肺の血管を詰まらせて胸痛や呼吸不全を起こすからだ。

 精神的な影響も見逃せない。外出自粛などでイライラすると家庭内でイザコザが増えて、モルハラなども起きやすくなる。また、運動不足はもとより孤独や社会的孤立などの精神的ストレスは脳神経の働きを衰えさせ、認知症のリスクをアップさせる。

「こうしたリスクを回避するためには、外出自粛期間中は血圧、脈拍、体重を毎日チェックして体調変化に注意することが大切です。持病のある人は服薬を忘れてはいけませんが、わざわざ通っている病院に行かなくても、医師と電話相談ができます。継続薬の処方箋はファクスなどで最寄りの薬局に送ってくれるので、そこで受け取ればいいでしょう。運動は1日最低30分、ラジオ体操など定期的にやることです。散歩は人混みの多い場所を避け、マスクを着けて1.5メートル以上の間隔を取れば、控える必要はありません。新型コロナ関連の情報ばかりに浸らないようWHOは勧告しています。強い怒り、興奮や驚きで、急性心筋梗塞や脳卒中リスクは3倍以上になるとされているからです」

 こんな時期だからこそ、お年寄りはスマホなどで仲間とつながりながら朗らかに楽しく過ごすように意識することが大切だ。

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