耳鳴りを感じたらすぐ受診 チェックしたい「間違った治療」

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

「耳鳴り」は、ひどくなると生活の質(QOL)を著しく落とす。記者も先日、人生初の耳鳴りを経験。「このままどうなるだろう」という不安にさいなまれた。

 記者が左耳の「ゴォー」という耳鳴りに気付いたのは、昨年末。「耳鳴りかも」と意識してからは、気になって仕方がなくなった。特に気になったのは夜、布団に入ってから。静かなので耳鳴りに意識がいき、眠れない。幸いにも2日で治まったが、想像以上につらかった。

「耳鳴りを感じたら、すぐ受診すべき」

 こう言うのは、慶応義塾大学医学部耳鼻咽喉科講師の神崎晶医師。まれに重篤な病気の症状として耳鳴りが出てくることもあるからだ。耳鳴りの生じ方によっては、MRI検査を行う。

 とはいえ、ほとんどの耳鳴りは命に別条がない。しかし、記者が経験したように、耳鳴りは本人にとっては非常につらい。実は耳鳴りのガイドラインが初めてできたのは、2019年のこと。エビデンスに基づいた耳鳴りの治療を行っている医療機関は少なく、適切な治療が行われていない人が少なくなかった。

■薬が効くという十分なエビデンスはない

「耳鳴り=薬」という考えは捨てた方がいい。

「耳鳴りでうつ状態や睡眠障害があるなら、精神科医や心療内科医と相談の上、薬を処方することもあります。特に睡眠障害は耳鳴りを悪化させるので、その対応はすべき。しかし、薬が耳鳴りや耳鳴りによる苦痛を改善するというエビデンスはない。薬を積極的に用いることはありません」(神崎医師=以下同)

 欧米諸外国のガイドラインでも、薬物療法を行わないことが推奨されている。

■重要なのは「起こる理由を知ること」

 耳鳴りの大半は難聴ありきで起こっている。

「音は、内耳の蝸牛で電気信号に変換され、脳に送られます。しかし、加齢などで蝸牛の細胞が障害される難聴になると電気信号が送られず、脳が興奮状態になる。その興奮を脳が“音”として受けるようになり、耳鳴りが生じるのです」

 耳鳴りを強く気にする方はやみくもに不安状態になっており、耳鳴りが起こる理由を知ると、不安が軽減して症状も改善することがある。

「耳鳴りは静寂な場所でより感じやすい。かすかな音楽を鳴らす耳鳴り治療器を耳につけたり、部屋で音楽やラジオなど何らかの音を流す。これらの音が聞こえにくい方は補聴器をつけることもあり、これらをまとめて音響療法と呼び、効果があります。耳鳴りを意識しないようになり、1~2年経過すると耳鳴りを感じなくなります」

■補聴器が効果的

 前述のように耳鳴りは、難聴によって起こる脳の興奮状態だ。音がきちんと届くようになれば、興奮状態が鎮まる。

「したがって聴力を獲得させる補聴器は非常に効果的なのです。補聴器で聴力を補うことで、耳鳴りが軽減します」

 補聴器は、その人に合うように微妙な調整が不可欠。補聴器に関する専門家の補聴器相談医の手を借りるべきだ。補聴器相談医を受診すれば、診断情報提供書を発行してもらえる。これを持って「認定補聴器販売店」で補聴器を購入し、細かい調整をするのがベスト。

「補聴器でも聞こえない重度の難聴の方には人工内耳と呼ばれる手術治療もあります。また慢性中耳炎で鼓膜に穴が開いている場合は、補聴器をつけにくい。手術をして聴力を改善させることは耳鳴りに効果的です」

 ガイドライン登場で、専門医以外もエビデンスに基づいた耳鳴りの治療をしやすくなった。“耳鳴りはよくならない”とあきらめていた人も、これを機にぜひ受診を。

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