男性の患者さんの中に、陰嚢(いんのう)の裏側あたりに血豆状の暗紫赤色のブツブツができると「性感染症ではないか」と疑い来院される方がいます。痛みやかゆみなどの自覚症状はありません。しかし、そのような病態の多くは「陰嚢被角血管腫」と呼ばれる血管腫の一種で、性感染症ではありません。
「血管腫」とは、血管内皮細胞が増殖してできる良性腫瘍のことです。「被角血管腫」は、表面に過剰な角化を伴う血管拡張性の血管腫の総称。それが陰嚢にできて、血豆のような1~数ミリの暗紫赤色のブツブツが毛細血管に沿って多発するのが特徴です。
被角血管腫は中年以降の男性の陰嚢に比較的多く見られますが、女性の大陰唇にも同じような症状が生じることがあります。女性の場合は「陰唇被角血管腫」と呼びます。陰嚢被角血管腫は高齢になるほど多く見られるので、老化現象(老人性血管腫)のひとつともいわれています。女性の場合は、妊娠による静脈圧の高進や女性ホルモンによる血管拡張作用なども要因と考えられています。
いずれにしても良性腫瘍で無症状のことが多いので、特に問題がなければ放置しておいてかまいません。ただし、血管にできる病変なので、破れて出血で下着を汚してビックリして受診する患者さんもいます。出血を繰り返したり、美容上(見た目)で治療を望むのであれば、レーザー治療や電気焼灼などで除去できます。陰嚢の皮膚は傷痕が目立ちにくいので、治療後の痕はほとんど分かりません。
一方で見逃してはいけないのは、被角血管腫とファブリー病との関係です。ファブリー病は、体内で「GL―3」という糖脂質を分解する酵素(α―GAL)の働きが弱いか、酵素がないためにGL―3が全身の細胞や臓器に蓄積して、全身にさまざまな症状が出現する難病です。
症状は一度に出るのではなく、順番に出てくるのが特徴です。小児期や思春期に表れやすい代表的な症状のひとつが被角血管腫なのです。ファブリー病では「びまん性被角血管腫」と呼ばれる赤紫色の発疹が、特にお腹、お尻、陰部などに出現します。そして初期の兆候で表れるので、推定的診断として重視されています。しかし、軽度では老人性血管腫と酷似しているので鑑別には注意が必要になります。
大人になって陰嚢にできる赤いブツブツはあまり心配ない、子供の陰部に赤いブツブツができたらファブリー病を疑う、と覚えておきましょう。
専門医が教える パンツの中の秘密