新型コロナウイルスによる肺炎の重症化リスクのひとつとして、最近よく耳にするのが「COPD」(慢性閉塞性肺疾患)です。
COPDは、たばこなどの有害物質を長期間にわたって吸入することで、肺に慢性的な炎症が起こる疾患です。空気の通り道である気管支の先にある肺胞が破壊され、酸素と二酸化炭素の交換がスムーズにできなくなります。呼吸困難などの症状が表れるうえ、全身にさまざまな合併症を招きます。心臓疾患はその代表的な病気です。
COPDの患者さんは心不全を合併しているケースが多く、COPD患者の約30%がうっ血性心不全の所見があるとされています。また、COPDの患者さんは、そうでない人に比べて心血管疾患による死亡が2・07倍で、死亡原因になった心血管疾患では、うっ血性心不全が4・09倍、不整脈2・81倍、急性心筋梗塞1・51倍と、いずれもリスクがアップしていたという研究報告もあります。
COPDで呼吸不全になると慢性的な低酸素状態となり、徐々に肺高血圧が進みます。心臓から肺へ血液を送る肺動脈の血圧が高くなるのです。そうなると、肺への血液循環が低下するため、肺に十分な血液を送り出そうとする右心室の負担が増大します。その負荷に耐えられなくなって心不全(右心不全)が起こり、高血圧の持病があるとより悪化しやすいことがわかっています。
また、COPDの患者さんは軽症でも動脈硬化が進行しているという報告もあります。COPDによって肺などに起こる炎症でサイトカインという物質が産生され、そのサイトカインが全身の血管の内皮細胞を傷つけ、白血球の一種である単球が内皮細胞にくっつきやすくなって動脈硬化を促進させるのです。動脈硬化は心臓疾患の大きな危険因子で、心筋梗塞や狭心症を招きます。 日本のCOPD患者数は530万人と推定されていますが、現状では根本的な治療法はありません。肺胞はいったん壊れると再生せず、肺の機能が元通りに回復することはないためです。しかし、早い段階でCOPDを見つけて治療を開始すれば、進行のスピードを緩やかにして将来的な合併症リスクを低減することができます。
■治療薬の選択にも注意が必要
COPDに対する治療法は、禁煙、気管支を広げるβ2刺激薬などによる薬物療法、呼吸リハビリテーションが中心です。ただし、心不全や不整脈などの心臓疾患を併発している場合は、それらを考慮しながら両方の疾患に対する治療が必要になります。その際、注意しなければならない点もあります。たとえば、COPDと心不全の治療では、それぞれで使われる薬の作用が正反対なケースがあるのです。
COPDでは、先ほど挙げたように交感神経を刺激して気管支を広げるβ2刺激薬が使われます。一方の心不全は、利尿剤のほかに血圧や心拍数を抑えて心臓の働きを休め、心機能を保護するβ遮断薬が多く用いられます。ただ、β遮断薬には気道を狭くする作用があり、気道けいれんを誘発する可能性があるためCOPDの患者さんへの使用は一般的に禁忌とされています。
そうした場合、COPDには気管支に作用するβ2刺激薬、心不全には心血管にだけ作用するタイプのβ遮断薬を使わなければなりません。日本呼吸器学会のCOPD治療ガイドラインでも、「心血管系の合併症を持つCOPD患者に心臓選択性のβ遮断薬を使用しても、副作用や気流閉塞の悪化がほとんど起こらない」としています。
いずれにせよ、呼吸器専門医と循環器専門医の連携が大切です。不安がある患者さんは、どんな連携体制になっているかを担当医に確認してみてください。
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