新型コロナ治療薬の希望の光 siRNAにかかる期待とハードル

新しい治療薬に期待だが…
新しい治療薬に期待だが…(C)共同通信社

 新型コロナウイルス感染症に対する治療薬の発見や開発が世界中で進む中、期待されているのが「siRNA」による核酸医薬品だ。

 新型コロナウイルスは、細胞内に侵入して自身の遺伝子=RNAを複製することで増殖する。siRNA核酸医薬品は、その遺伝子の発現を抑制してウイルスの増殖を阻止するものだ。

 多くの植物や動物にはもともと「RNA干渉」という遺伝子発現抑制機構が備わっている。たとえば、自身の細胞を乗っ取ろうとするウイルスがあった場合、siRNA、shRNA、miRNAといったRNAが、標的とするウイルスの遺伝子(RNA)に結合し、遺伝子の鎖を切断して発現を抑え込む。主にウイルス感染から身を守る生体防御機構として機能している。

 今回の新型コロナウイルスに対しては、中でもsiRNAを使った治療薬が有望視されている。米国の研究機関で遺伝子研究に携わってきた岡山大学病院薬剤部の神崎浩孝氏は言う。

「siRNAによるRNA干渉は、植物や線虫などでは自然に備わっているウイルス感染予防機構です。ヒトの場合、miRNAがRNA干渉を誘導しますが、近年になって化学合成したsiRNAがヒトの細胞でもRNA干渉を誘導することが分かりました。siRNAには、標的とする遺伝子に対する特異性が高いという特徴があります。今回でいえば、新型コロナウイルスの遺伝子だけを狙って抑制して、他の遺伝子には影響を及ぼしません。つまり、薬として使った時に副作用が少ないということです」

 一方、miRNAは1つでたくさんの遺伝子に対して働く。植物や線虫に比べヒトにはさまざまなたくさんの臓器があるため、siRNAのように1対1で対応するシステムは効率が悪いのだ。

「逆に言えば、miRNAを使うと標的以外の遺伝子に作用してしまうということです。ですから、特定のウイルスの遺伝子だけを狙うには、siRNAが適しているのです」

 また、siRNA核酸医薬品はすでに製品化されていて、「トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー」という病気に対する治療薬として使われている。新型コロナウイルス用として開発する際、参考にできる製品化ノウハウが蓄積されているのも期待が大きいポイントだ。

■細胞の中にどうやって到達させるか

 ただし、まだ課題は多い。遺伝子の長さを表す「塩基」の数を見ると、siRNAの21塩基に対して新型コロナウイルスは約3万塩基と膨大だ。ウイルスの増殖を阻害するRNA干渉を最も効率的に起こさせるには3万塩基の中から最適な21塩基を選び出し、その配列に対応したsiRNAを合成しなければならない。

「どの部分の21塩基を取り出せば最適なのかは現在も研究中ですが、そこまで時間はかからないだろうと予想されています。いまはスクリーニングの技術が進歩していて、ウイルス遺伝子のどこの部分がホットスポットなのか、ある程度予測がつくからです」

 最大の課題は、siRNAをどうやって狙った細胞の中に到達させるかだという。

「これまでに研究されたり開発されているsiRNA核酸医薬品は病気の原因になっている遺伝子に狙いを定め、siRNAを到達させれば有効でした。しかし、今回はウイルスに感染している細胞を選び、さらに細胞の中までsiRNAを到達させなければなりません。そもそも細胞膜に包まれた細胞の中にsiRNAを到達させるのは難しく、実験では細胞膜を緩める試薬と混ぜたり、一時的に電気ショックをかけて細胞膜を緩める方法が行われています。こうした手段は実際の患者さんには使えませんからハードルは高いといえます」

 新しい治療薬の登場は時間がかかりそうだが、いずれやってくるだろうコロナの再パンデミックに備える意味でも期待したい。

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