研究33年ウイルス学者が語る新型コロナ

新興感染症はすべての動物に表れる どーんと受け止めるしかない

新型コロナウィルスの電子顕微鏡写真
新型コロナウィルスの電子顕微鏡写真(米国立アレルギー感染症研究所提供)

 私はネットでは「にゃんこ先生」と呼ばれている。しかしその正体は、この道33年のベテラン獣医ウイルス学者である。私は、犬や猫、猿のウイルスを中心に、地道に33年間研究を行ってきた。これまで扱ってきたウイルスは優に50種を超える。大学では、ウイルス学、人獣共通ウイルス感染症学、公衆衛生学の講義を担当してきた。

 今回の新型コロナウイルス(SARS―CoV―2)は人に新しく出現したいわゆる「新興ウイルス感染症」である。人の新興ウイルス感染症はほとんどすべて動物由来である。動物のウイルスが変異して、何らかの経路で人に感染し広がるのである。新興ウイルス感染症は、人にだけ表れるものではなく、すべての動物に表れる。獣医ウイルス学者は常に新興ウイルス感染症と対峙している。

 今回の新型コロナウイルスが昨年末、武漢で発生して以来、私はハラハラしながら成り行きを見守ってきた。日本に侵入してから数週間で、私は現在のような事態になることを覚悟し、SNSを中心に、これは「どーんと受け止めるしかない。」と発信した。

 獣医学領域においては、さまざまな方法で新興ウイルス感染症に対処する。新興ウイルスの多くは、ワクチンや治療薬はない。産業動物においては、感染動物を発見し、それを殺処分することによって、感染を封じ込める。

 人ではどうなのか?無論、殺処分はできないので、感染者を発見し、隔離をするしかない。

 しかし、このウイルスにそのような対策は無効であることはすぐに明らかとなった。チャーター便で帰国した人々やクルーズ船乗客のウイルス陽性者の多くは症状を示さない無症候者であり、感染者の多くを見逃してしまうことがわかったのだ。

 私たちは、このウイルスからは、逃げることはできない。このウイルスを真正面で受け止める必要があるのだ。ただし、それには無限の道がある。

(つづく)

宮沢孝幸

宮沢孝幸

京都大学ウイルス・再生医科学研究所附属感染症モデル研究センターウイルス共進化分野准教授。日本獣医学会賞、ヤンソン賞などを受賞。小動物ウイルス病研究会、副会長。

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