第2波に備えよ 新型コロナを徹底検証

<4>なぜ高齢者は感染しやすく重症化しやすいのか?

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 新型コロナウイルス感染症(COVID―19)を引き起こす新型コロナウイルスの構造は単純だ。ウイルス自体の遺伝子(RNA)とそれを保護する膜でできていて、膜のところどころにスパイクといわれる突起物があるだけ。タンパク質やエネルギーを作る仕組みはない。

 そのため、細菌などの他の病原体とは異なり、自ら増殖できず、人や動物の体に侵入して、その細胞の働きを利用しなければ生きられない。

 新型コロナウイルスの感染はウイルス表面の突起状のスパイク(S)タンパク質と細胞表面にあるACE2(アンジオテンシン変換酵素2)受容体との結合で始まる。そして細胞膜にある「TMPRSS2」などのタンパク質分解酵素によりSタンパク質が切断されることで、ウイルスと細胞を融合させる。その結果、ウイルスは細胞内に侵入し大量のウイルスの複製を作り、それが細胞膜を破って細胞外に放出され、周囲の細胞に次々と感染していく。

■獲得免疫の衰えが激しい

 なぜ新型コロナウイルスは風邪コロナウイルスとは違って重症化しやすく、とくにそれが高齢者に目立つのか? 東邦大学名誉教授の東丸貴信医師が言う。

「私たちの体には2種類の免疫機能があります。ウイルスなどの病原体が体内に侵入すると、即座に攻撃する『自然免疫』が活性化し、貪食細胞、樹状細胞そしてNK細胞がウイルスを排除しようとします。ついでより強力な『獲得免疫』が誘導され、Tリンパ球がウイルス感染細胞を攻撃するのみならず、Bリンパ球がウイルスに反応して『抗体』と呼ばれる特殊なタンパク質を作ります。抗体がウイルスと細胞の結合を阻止してウイルスの細胞内侵入を防ぐのです。ただし、新型ウイルスの場合は、すぐに十分な量の抗体を作るのが難しいので、その間にウイルスが増えて重症化していくのです」

 免疫システムは自分の細胞を攻撃しない。ウイルスはその性質を利用して細胞内に逃げ込むことで攻撃を回避。免疫が油断している間に細胞内で爆発的にその数を増やし、一気に細胞外に出て感染拡大する。

 むろん、人の免疫防御態勢もバカではない。ウイルスが感染した細胞は、そのことを周囲に知らせるシグナルを細胞表面に出す。それを目指して獲得免疫を担うキラーT細胞などが攻撃を仕掛けて感染した細胞ごとウイルスを破壊する。また、新型コロナウイルスは、この細胞表面に表れるシグナルを出させない機能と免疫を撹乱する能力を持っているらしい。

「ウイルスが体内の細胞に感染すると、通常はインターフェロンが作られます。インターフェロンとはウイルスが増えるのを抑え、免疫反応や炎症の調整をする生理活性物質(サイトカイン)の一種です。新型コロナウイルスは、このインターフェロンのシグナル伝達に必要なSTAT1タンパク質の働きを阻害し、インターフェロンができるのを抑制するというのです。そして感染した細胞は、そのことを周囲に知らせることができなくなってしまうばかりか、免疫細胞の敵味方の区別を見誤らせることで、自身の体を攻撃させるのです」

 残念ながら加齢により獲得免疫であるTリンパ球は老化し疲弊する。老化したTリンパ球は、ウイルスに対する免疫防御力は弱く、逆に炎症を増強する傾向がある。

 高齢者が新型コロナウイルス感染症にかかりやすく重症化しやすい理由は、狡猾な新型コロナウイルスに対する免疫力とくに獲得免疫力が弱くなるためと考えられているのだ。

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