和式生活が健康を作る

「下駄」で足指の内在筋が鍛えられ つまづきの防止になる

下駄は足指の筋肉を鍛えてくれる
下駄は足指の筋肉を鍛えてくれる

 欧米に比較し、日本で新型コロナウイルスの感染率が低い理由のひとつは、どうやら和式文化と無関係ではなさそうだ。

 ハグやキス、握手などの“濃密接触”よりも、少し距離を置き、頭を下げる「おじぎ」がその典型的な事例である。飛沫感染の予防にもなる。

 そうした日本の伝統文化の良さが今、見直されてきた。「下駄」もそのひとつである。広島県福山市松永町の地名が付いた「松永下駄」は、1960年代の最盛期、年間5000万足をはるかに超えて日本一の生産高を誇った。現在も6割のシェアを持っているが、同市の近隣にある県立広島大学の金井秀作教授(理学療法学科)は、この下駄に強い関心を抱く。

「下駄に興味を示した理由は大きく2つありました。1つは、高齢者のリハビリです。足指の筋肉を保ち、つまずいたりせず、高齢者でも快適に歩くためにも、足指を鍛えなければいけません。老人ホームなどで足指でビー玉をつかむ訓練や、砂浜を裸足で歩く運動などを行うという足指のリハビリを研究していたのです」(金井教授=以下同)

 もう1点は、郷土愛である。町おこしのため、全国的に知られていた「松永下駄」の再興を願って、下駄の研究に着手したという。

 下駄の効能は、靴に比べて、まず通気性にたけていることから「水虫」にはなりづらい。

 また、下駄は「外反母趾」(ハイヒールを好む女性に多く、親指のつけ根部分の骨が変形して痛みが生じる)の心配もほとんどない。

 歩く姿勢も、必要以上に楽に歩けてしまう運動靴と相違し、程度よく負荷がかかる下駄履きは、特有の効果がある。

 京都・舞子さんが好例のように、正しい姿勢の歩行は、ゆがむ姿勢を排除するなど、下駄は健全な体の一助になる。

「なんといっても下駄履きの健康は、足指の第1趾と第2趾の間に鼻緒を入れて歩くことですね。これは『内在筋』(歩行中に必要な柔軟性、弾力性の筋肉)を強めます。これが弱くなると可動域が制限されます。自動車社会で脚の筋肉が弱り、指の器用さも薄れ、歩く基本の足指が劣化してきました。その足指を鍛えるためにも、鼻緒をつかんで歩くのが効果的なのです。靴文化であるドイツの知人は、日本文化の下駄について感心していました」

 足指を鍛えていたら、歩く時でも、地面をしっかりつかまえて、前に踏み込むことが可能である。

「若手の力士が下駄を履いているのは有名ですが、最近では他のスポーツ選手もトレーニングに使う方が増えています。足指でしっかり鼻緒をつかみながら歩いて、足指の内在筋を鍛えているのです。相手にぶつかるなど瞬発力には、足指で蹴って飛び出す力が重要ですからね」

 下駄が健康にいいと思っても、電車通勤のサラリーマンにとっては、ちょっと難しい。

 朝夕、あるいは休日、自宅周辺の散歩時、シューズを脱ぎ、素足で下駄履きの姿も一考かもしれない。

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