中国のキクガシラコウモリとコロナに感染しにくいアジア人

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京大ウイルス・再生医科学研 宮沢孝幸准教授が語る

 一般的にウイルスに感染すると抗体が誘導される。感染から回復しウイルスが体内から排除された後も、抗体は体内に存在し続ける。その持続期間は、ウイルスによってさまざまであるが、数カ月から数年である。新型コロナウイルスも、抗体を調べることによって、これまでにどれくらいの人々がこのウイルスに感染したのかが分かる。

 6月16日、厚労省から新型コロナウイルスの抗体陽性率が発表された。その結果、陽性率は、東京が0・10%、大阪が0・17%であった。国が時間をかけて慎重に行った検査結果であり、信頼性は高い。

 集団免疫の理論によると、新型コロナウイルスの感染が終息するには、およそ20~60%の人が抗体陽性にならなければならない。2月からの流行で0・17%しかウイルスに感染しなかったとなると、計算上は、感染終息までには、40年以上かかってしまうことになる。効果的なワクチンができるまで、このウイルスと共存するしかないのだ。ワクチンの安全性と効果を確かめるためには、動物実験や臨床試験が必要で、それには、通常数年以上かかる。

 効果的なワクチンができるまでは、このウイルスから逃げ続けなければならないとなると、絶望的になるかも知れない。しかし、私は希望があると思っている。アジア人は欧米人に比べて、このウイルスに感染しにくい傾向がある。日本をはじめアジア諸国においては、欧米のような感染爆発は起こっていない。国内の疫学データによると、緊急事態宣言後の追加自粛による効果もはっきりしない。このことは、日本は欧米のロックダウンのような強い行動制限をしなくても、私が提唱する「100分の1作戦」だけで、このウイルスから逃れることができることを示唆している。

 新型コロナウイルス関連ウイルスは、キクガシラコウモリ属のコウモリから多数見つかっている。キクガシラコウモリの分布は、アジアから欧州、アフリカにかけてと広いが、新型コロナウイルス関連ウイルスは、中国に生息するキクガシラコウモリにのみ見つかっている。国内にもキクガシラコウモリは存在し、中国のものと遺伝子的に近い。国内のキクガシラコウモリのウイルス保有状況は調べられていないが、国内のユビナガコウモリでは、新型コロナウイルスと同じベータコロナウイルス属のウイルスも見つかっている。コウモリとコロナウイルスは古くから共存関係にあり、たびたび、人に感染したと思われる。

 アジアの人々は、コウモリからベータコロナウイルスの感染の洗礼を何度も受け、生き残った末裔であるのかも知れない。

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