病気を近づけない体のメンテナンス

鼻<上>溢れた膿が目を圧迫…鼻水を放置すると失明の危険も

写真はイメージ
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 日本の全人口の約40%がアレルギー性鼻炎を持つといわれている。春のスギ花粉症の時季だけに症状が強く出る人もいるが、「くしゃみ」「鼻水」「鼻づまり」の3大症状を軽く見てはいけない。鼻が悪いと、耳や目、さらにいえば全身にまで悪影響を及ぼすからだ。

 鼻と耳はつながっているため、「鼻水がよく出る」と「耳の聞こえが悪い」という症状が一緒に表れるケースがよくある。日本医科大学付属病院・耳鼻咽喉科の大久保公裕教授が言う。

「鼻の奥にある『鼻咽腔』と『中耳』は『耳管』という管でつながっていて、中耳の空気圧を調節しています。飛行機に乗ったとき、耳がつまった感じがして聞こえが悪くなった経験があると思いますが、これは急激な気圧変化で耳管の換気機能がうまく対応できずに起こります。この場合、唾を飲み込むと治る一時的なものです。しかし、鼻炎をこじらせ耳管開口部周囲に炎症が及ぶと耳管が塞がれ、同じように聞こえが悪くなる『耳管狭窄症』を起こすのです」

 鼻炎によって耳管狭窄症が長く続くと、さらに「滲出性中耳炎」に発展することもあるという。滲出性中耳炎は、鼓膜よりさらに奥にある「中耳腔」という空間に液体がたまるタイプの中耳炎。耳管の炎症が長引いて中耳腔に波及すると「粘液」という液体が出てきてたまってしまう。

 中耳腔に粘液がたまると、外耳道(耳の入り口)から伝わってきた音が鼓膜から耳小骨、そして内耳へと伝わらなくなり、耳が聞こえにくくなってしまうのだ。

 子供の難聴の多くが、この滲出性中耳炎に起因するもので、痛みがほとんどない。そのため発見が遅れがちになってしまう。子供が「耳がおかしい」などの不快感を訴えたり、テレビの音量を過度に大きくするようなら耳鼻科を受診させた方がいいという。

 このような耳管狭窄症や滲出性中耳炎を予防するには、鼻水と鼻づまりを解消しておくことが大切になるという。

■鼻づまりは早死に

 鼻は耳だけでなく、目ともつながっている。そのため副鼻腔からの鼻水を放置すると、万一の場合、失明する危険性もあるのだ。原因は「副鼻腔炎」。アレルギー性鼻炎があると、粘膜が腫れやすかったり、空気が通りにくかったりして、細菌に感染しやすく、副鼻腔炎を合併しやすくなる。

「鼻の奥は骨で囲まれた8カ所の空洞があり、総称して『副鼻腔』と呼びます。鼻と副鼻腔は『自然口』という通路でつながっています。しかし、細菌感染やアレルギー反応などで粘膜が腫れて、自然口が閉じられると膿がたまって副鼻腔炎になります。副鼻腔は目の裏側にも位置していますので、あふれた膿が目を圧迫して視力に影響を及ぼすことがあるのです。最悪、失明に至ることもあります」

 副鼻腔炎の被害は目だけにとどまらない。悪化して、耳に影響が出れば「難聴」、のどに菌が移れば「気管支炎」、炎症が脳の下まで及ぶと「脳膿瘍」という頭蓋内合併症を引き起こすこともある。かつては死亡例が出たこともあったが、現在は早期に治療すれば恐ろしい病気ではなくなっている。

 まずは「くしゃみ」「鼻水」「鼻づまり」の鼻症状が長引いたら、受診して重篤な病気が隠れていないか調べてもらうことが重要。そして、鼻の通りをよくして、「鼻呼吸」を意識することが全身の健康につながるという。

「極端に聞こえるかもしれませんが、『鼻づまりで早死にする』というのは真実です。それは『口呼吸が増える』からです。口呼吸が増えると基礎代謝が下がり、メタボ体形になり、その肥満が生活習慣病を招き、寿命を縮めることになります。それに鼻呼吸より酸素を効率よく取り入れることができないので、心臓の鼓動が速くなり、心臓や血管などの循環器系に大きな負担がかかります。また、体内の酸欠から疲れやすくなったり、自律神経に乱れが生じたりもします」

 注意しなくてはいけないのは、自力で呼吸をコントロールできない睡眠中。無意識に口呼吸をしていると血圧を上昇させてしまうので、鼻呼吸をスムーズに続けられるように「口をテープで押さえる」のがお勧めという。

 今は一回の使用ごとにカットされた専用のテープが市販されている。ただし、鼻の両方の穴が明らかにつまっている場合は、窒息する危険があるのでNG。特に子供への使用は厳禁という。

 次回は、鼻の通りをよくするセルフケアを紹介してもらう。

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