高齢化に伴い、認知症を患う人は増加しています。2018年における認知症に関連した行方不明者は1万6927人で、年々増加の一途をたどっています。徘徊(はいかい)した先で事故などに遭遇し、ケガをしたり、死亡してしまうケースも少なくありません。さらに、認知症患者さんの徘徊行動は、介護者にとっても大きな負担となります。
しかし、こうした徘徊行動を防ぐ有効な手だては存在せず、社会的にも大きな課題となっています。そんな中、日本における認知症に関連した行方不明者に関する研究論文が日本疫学会誌の電子版に、20年6月27日付で掲載されました。
この研究では、18年における認知症に関連した行方不明者と死亡者を警察庁の統計データから取得し、その発生率に影響を与える要因の探索が行われています。
その結果、年間10万人当たりの認知症関連の行方不明は21・72件、死亡は0・652件でした。行方不明者の発生を低下させる要因について解析をしたところ、65歳以上の高齢者10万人当たりの介護施設が1施設増加すると7・9%、保健師が1人増加すると3・2%、統計的にも有意に低下することが示されました。
この研究では介護施設や保健師の人数が増え、認知症患者さんに対するケアが手厚くなるほど、徘徊リスクを低減できる可能性が示されています。
認知症は薬による治療が一般的ですが、その効果は大きなものではありません。
18年、フランスでは認知症治療薬が保険適用から外されました。このことは決してネガティブな政策ではなく、治療よりもケアを重視するという方向性に切り替えたということです。日本でも、認知症は治療とケア、その両輪で考えていくことが大切だといえるでしょう。
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