独白 愉快な“病人”たち

“ゴミ清掃員芸人”滝沢さん 簡単なはずの手術で心肺停止に…

滝沢秀一さん
滝沢秀一さん(C)日刊ゲンダイ

 首の後ろの付け根あたりにボコッと盛り上がったものを感じたのは、4~5年前のことでした。押してみると適度な弾力があって特に痛みもない。「でっかいホクロかな」と思って妻に見てもらったら、「なんか白いのがある」というので町医者に行ったんです。すると「脂肪腫だと思いますが、一応、大きな病院で診てもらってください」と言われ、紹介状をもらって帰宅しました。

 脂肪腫は、脂肪細胞が増殖してできる良性腫瘍です。悪性の脂肪肉腫と似ているので正確には細胞を採って検査しないとわからないけれども、九分九厘が無害だと言われています。気づいたら左肩にもボコッと出現してたんですが、命に関わるようなものではないし、痛みもなく不都合もないので、「いつか病院に行くチャンスがあったら診てもらおう」といった感じで、病院には行きませんでした。

 そして去年、「ゴミ清掃員芸人」としてメディアで取り上げてもらうことが多くなったので、ちょっと身ぎれいに体の気になる部分を一掃しようと思って、銀歯とともに脂肪腫の除去にも取り組んだのです。

 大きな病院へ行くと、医師から「たぶん良性だと思いますが、手術しますか?」と聞かれました。「手術が必要ですか?」と聞き返したところ、「大きくなりますよ」と言われたので、「じゃ、来週で」と話がまとまったのです。

 手術といっても日帰りだし簡単だろうと、当日もコンビニに行くような気楽さで出掛けました。でも、通されたのはものものしい手術室……医師も4~5人いて意外でした。

 部分麻酔をして、まずは首の後ろの脂肪腫を30分ぐらいかけて取り出し、次に左肩に取り掛かったときに事件が起きました。最初は痛みがなかったのですが、途中で麻酔の効いていないところまで切られて、「痛ッ! イターッ!」となったんですね。すかさず、医師が「はい、麻酔足しますね」と言いながら、何本か麻酔注射を打たれました。僕が痛がりすぎたのか、1~2本程度じゃありません。

 そうしたら数秒で意識がなくなって、目覚めたら医師が10人ぐらい集まって僕をのぞき込んでいるのが見えました。みんなかなりビビった様子で、「よかった~」と安堵していました。それで、「なんですか?」とたずねたら、「今、心臓止まってたんだよ」と言われたんです。

 どうやら1分間、心肺停止状態だったようなんです。

■8000円のはずだった手術費が5万超に

 日帰り手術だったはずが「泊まっていきなさい」となって、翌日は心臓の検査などがありました。異常がなかったので無事退院となったんですけど、当初は8000円のはずだった手術費が、会計に行ったら5万ウン千円になっていて、もう1回、心臓が止まるかと思いました。

 そりゃ、検査や入院費がかかるのでそうなんでしょうけど、マジでお金がない時期だったので「これは俺が悪いのか?」とモヤモヤしました。その気持ちは今でもぬぐえません。

 でも、仕方がないので払いましたけど……。

 検体はやはり良性でしたし、傷口の痛みも大したことなく、退院2日後には清掃員の仕事にも復帰していました。心臓が止まったといっても、自分はただ寝ていただけなので大したことない……そう思ったのですが、一部始終をツイッターに書いたら思いのほか反響があって、ネットニュースに取り上げられたりもしました。

 芸人の間では「嫌なことがあったらその分いいことが返ってくる」という人も多いんですよね。後輩から「滝沢さん、これから覚醒するんじゃないですか?」と言われたり、相方の西堀さんには「滝沢君はいろんなことができるんだね。ゴミにも詳しいし、心臓も止められるし」と褒められました(笑い)。

 三途の川は見ませんでしたけど、意識を失っているときに幻覚を見ました。

 元巨人軍の堀内監督に似ている顔から、いっぱい足が出ている“変なモノ”です。堀内監督には何の思い入れもないんですけど……。

 最近、左手がしびれるような感覚があって「もしや手術の後遺症?」と怖くなったんですが、よく考えたら、今スマホで次の本の原稿を書いているので、それが原因かなと思い直しました。隙間時間に左手でチマチマ打ち込んでいるんですよ。秋に出る予定のやっぱり「ゴミの本」なんですけど、書くことがありすぎて80ページオーバー中です。

 脂肪腫は病気といえないような病気ですが、そんな楽勝なはずの手術でも、心肺停止は起こり得るんです。運よく助かりましたけど、あのまま逝ってしまった可能性だってありました。それまで、「死」はかなり先の方にあると思っていましたが、ずいぶん身近になりました。生きていること自体がラッキーなんですよね。多少、嫌なことがあっても“生きていればいいや”と思えるようになりました。

 そう、ラッキーといえば、手術時に1泊入院したことでなんと保険が下りたんです。しかも10万円! なんか得した感じがして、もう1回心臓止めたいと思いました(笑い)。

(聞き手=松永詠美子)

▽たきざわ・しゅういち 1976年、東京都生まれ。98年に西堀亮とお笑いコンビ「マシンガンズ」を結成。2007年、08年に「M-1グランプリ」で準決勝進出。12年、14年には認定漫才師50組に選ばれた。08年に結婚し、12年からゴミ収集会社に就職。清掃作業員と芸人の両立で話題となり、著書「このゴミは収集できません」がベストセラーになる。その後も清掃員体験を題材にした著書を続々と出版。近著に漫画「ゴミ清掃員の日常 ミライ編」、絵本「ゴミはボクらのたからもの」がある。

関連記事