人がいなければマスクは外してOK 熱中症は柔軟な自己管理で予防する

道を歩いていても、周囲に人がいなくなったら外してもいい
道を歩いていても、周囲に人がいなくなったら外してもいい(C)共同通信社

 コロナに脅かされた2020年も、いつの間にか折り返し地点。緊急事態宣言や自粛要請も解除され、もとの日常が戻りつつあるが、東京都の感染者数は増減を繰り返しており、依然予断を許さない。そして、街を歩けばほとんどの人がマスクをつけ、マスクをつけない人は白い目で見られてしまうという、「新しい日常」はまだまだ続く。改めて新型コロナ禍での熱中症対策について帝京大学医学部附属病院高度救命救急センター長で、同大学医学部救急医学講座の三宅康史教授に話を聞いた。同氏は環境省「熱中症予防声かけプロジェクト」の実行委員長も務める熱中症対策の第一人者である。

「通常は夏に向けて、徐々に身体が暑さに慣れていく暑熱順化が起こりますが、今年は長引いた外出自粛でこの暑熱順化が進んでいない。そんななかで一気に経済活動が再開し、これまでテレワークで朝はのんびりしていた人が、急に電車通勤を再開して、会社に行く。さらに今年の夏は、日本人が皆マスクをつけたまま迎えるというかつてない夏となります。これによって熱中症の患者がどのくらい増えるか、予断を許さない状況です」

  本来、人間は冷たい空気を吸うと、温かく湿った空気が呼気として出て、その分身体が冷やされる。しかし、マスクをつけたままだと、息を吸う時に温かくなったマスクを通過してくるので、温かい空気が身体に入ってくる。さらに吐く息がマスクを暖めるという悪循環によって、呼吸によって身体を冷やす効果が圧倒的に落ちてしまうのだ。

「コロナ対策にマスクは必須ですが、そのマスクによって体温が上がって、熱中症になるリスクが高まるのも確か。今年の夏は、コロナ対策と熱中症対策、この両方をきっちりやらないと乗り切れないと言ってもいいでしょう」

 もっとも、マスクをするとで顔の表面温度は確かに上がるとはいえ、そのために冷房を使ったりこまめに水分を取る人が増えれば、熱中症になる人も増えない可能性もあると三宅医師は補足する。そもそも、このコロナ禍において、常時マスクをつけていなければいけない、と思い込むのも間違っているというのだ。

「マスクは何のためにするのかといと、飛沫を人にかけないため。特に大声でしゃべったり、くしゃみやせきをしたときに、飛沫を近くにいる人にかけないためにするのです。症状はなくても、コロナに感染している可能性はあるから、人に自分のコロナをうつさないためにマスクをしている。逆にいえば、周りに人がいない空間だったら、マスクをする必要はないんです。周囲2メートル以内に人がいない、換気もできている空間なら、必ずしもマスクをする必要はありません。マスクをしないと白い目で見られるといっても、周りに人がいなければ、白い目で見る人もいないわけですから」

 道を歩いていても、周囲に人がいなくなったら外してもいい。口元が蒸し暑くなってきたら、人気のいないスペースにいって、マスクを外すのも大いにアリだ。

「もちろん、マスクを外すだけが熱中症予防ではありませんから、冷たい水分を取るとか、マスクをしたままでもエアコンのきいたところに行って、冷たい風を浴びるとか、そういったことは積極的にやったほうがいいです。マスクをしたまま涼しいところで休憩するのも、立派な熱中症の予防策です」

 30分歩かなければならないとしたら、初乗り料金分だけでもタクシーに乗るとか、途中の喫茶店に入って涼むなどの対処法も前もって考えておく。水分補給には、自販機でペットボトルを買うよりも、水筒を持ち歩くのがお勧めだ。

「ペットボトルの水はすぐにぬるくなってしまいますから、それよりは水筒の水に氷も入れて持ち歩くのがいい。冷たいまま維持できる持ち歩き方をするというのがポイントです」

 飲み物は水が一番いいが、ジュースやカルピスには糖分を取る効果があるし、コーラなどの炭酸飲料も、糖分を取るだけでなく、胃腸の動きをよくして食欲増進効果があるという意味では、身体を元気に保つ効果がある。コーヒーやビールは利尿作用があるので熱中症対策にはマイナスだが、ストレス解消のために適量飲む分には構わない、と三宅医師は話す。

「大事なことは、蒸し暑さを感じたら早めに少し休んだり、水分を取ること。今年はコロナ対策と熱中症対策の両方をやらなければならない年になりましたが、このふたつは十分に両立できるのです」

 備えがあれば、マスクをしながら迎えるという、前例のない今年の夏も怖くない?

関連記事