新型コロナ後遺症の正体

筋痛性脳脊髄炎に注意 SARSでは1年後に17%が職場復帰できず

2003年、カナダでSARSが流行し273人が感染した(退院するSARS高齢患者を、彼女の車まで付き添う防護服の病院従業員)
2003年、カナダでSARSが流行し273人が感染した(退院するSARS高齢患者を、彼女の車まで付き添う防護服の病院従業員)/(C)ロイター
日本の死亡率は決して低くない

 7月上旬、米国国立アレルギー感染病研究所の所長は、「長く続く疲労症候群が新型コロナウイルス感染症に伴う場合があり、その症状が、以前は慢性疲労症候群と呼ばれていた筋痛性脳脊髄炎(ME)患者の症状に似ている」と報告。レスター大学の研究者は、「過去のSARSとEBウイルス(伝染性単核球症)の集団発生の際には、MEと診断された患者数がそれぞれ8~10%上昇したというエビデンスがあり、重篤なウイルス感染とMEが関連していることは明らかです」と報告している。 また、シカゴのデポール大学教授は、「過去の流行から学ぶウイルス感染後疲労とCOVID-19」と題する論文を発表。感染後に発症するME/CFSは、ブルセラ症、EBウイルス、ライム病、 Q熱、ウイルス性髄膜炎、デング熱などのパンデミックの後で増加するリスクがすでに報告されている。

 2003年、カナダのSARSの流行の際に273人が感染し、集中治療を受けた107名の患者の後遺症に関する調査が実施された。様々な症状はMEに非常に類似していた。感染1年後にも、17%の患者は持続的に症状が重く、仕事に戻ることができず、87%の患者には何らかの症状が残っていた。

「欧米に比べると日本での新型コロナウイルスの死者数は確かに少ないのですが、抗体検査などの結果から推測すると、感染者数も桁違いに少ないと考えられます。しかし、台湾など東アジアの国に比べれば、死者数は決して少なくない。国際医療センターの報告では、日本が7.5%、中国が28%、英国が26%、米ニューヨーク州は21~24%となっていますが、ドイツの死亡率は日本より低いと推定されます」

 注意したいのは欧米の死亡率は患者急増パニック期であることだ。

「7月末から8月にかけての感染者数に対する死亡率は日本と同等から2倍程度にすぎないのです。重症の患者さんでは、退院後も肺や心臓の機能が十分回復せず、元の社会生活に戻れない可能性があります。また、軽症であっても、脳炎や筋炎などの後遺症で、頭痛や筋痛などの違和感が残り、完全に正常化するにはかなりの時間を要します。この原因として、感染して発症後、ウイルスが2週間くらいでは消失せず、2カ月以上にわたり体の中に増殖できる状態で残っている可能性が示唆されています」

 最近は若い世代の感染者が増えている。

「若い人は感染しても症状が無いか軽症で、すぐに体力も快復するといわれていますが、少なからぬ若者が長期間後遺症に悩まされていることも認識しておく必要があります」

東丸貴信

東丸貴信

東京大学医学部卒。東邦大学医療センター佐倉病院臨床生理・循環器センター教授、日赤医療センター循環器科部長などを歴任。血管内治療学会理事、心臓血管内視鏡学会理事、成人病学会理事、脈管学会評議員、世界心臓病会議部会長。日本循環器学会認定専門医、日本内科学会認定・指導医、日本脈管学会専門医、心臓血管内視鏡学会専門医。

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