役に立つオモシロ医学論文

コロナ禍による受診控えでがん関連死亡は増加しているのか

ロンドン大聖堂の近くを歩く人たち
ロンドン大聖堂の近くを歩く人たち(C)ロイター

 英国では2020年3月、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、全国的なロックダウンが行われました。医療機関の受診についても緊急性のある患者さんが優先的に診療を受け、定期的な診療やがん検診は先延ばしとなったそうです。そのような中で、命にかかわるような病気の発見が遅れてしまうリスクも高まることでしょう。 

 世界的にも有名な医学誌、ランセットのがん専門誌に、英国におけるロックダウンがもたらした、がんの診断の遅れと死亡リスクの関連性を検討した研究論文が、2020年7月20日付で掲載されました。

 この研究では、2010年1月1日から同年12月31日の間に乳がん(3万2583人)、大腸がん(2万4975人)、食道がん(6744人)と診断された人、及び2012年1月1日から同年12月31日の間に肺がん(2万9305人)と診断された人が対象となりました。2020年3月にロックダウンを開始してから、1年間における診断の遅れが、その後の生存率にどのような影響を与えるかが検討されています。

 解析の結果、新型コロナウイルス流行前と比較して、診断から5年目までにおける乳がん死亡者が7・9~9・6%、大腸がん死亡者が15・3~16・6%、肺がん死亡者が4・8~5・3%、食道がん死亡者が5・8~6・0%、それぞれ増加すると見積もられました。これら4種のがんについて、5年間の追加死亡者数は、3291~3621人に上ることが予想されています。

 日本でも、新型コロナウイルスの感染拡大により、不要不急の外出を自粛するよう呼びかけられました。このような自粛ムードが広がる中、小児科を中心に医療機関の受診を控える人が増加したようです。小児に対するワクチン接種や必要な検診などの予防医療が適切に実施されるよう、十分な配慮が必要かと思います。

青島周一

青島周一

2004年城西大学薬学部卒。保険薬局勤務を経て12年9月より中野病院(栃木県栃木市)に勤務。“薬剤師によるEBM(科学的エビデンスに基づく医療)スタイル診療支援”の確立を目指し、その実践記録を自身のブログ「薬剤師の地域医療日誌」などに書き留めている。

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