Dr.中川 がんサバイバーの知恵

高橋幸宏さんが脳腫瘍を摘出…良性の髄膜腫なら全摘可能

脳腫瘍を摘出した高橋幸宏
脳腫瘍を摘出した高橋幸宏(C)日刊ゲンダイ

 無事に手術を終えたのは何よりです。テクノグループ「YMO」の高橋幸宏さん(68)が脳腫瘍であることを伝えるニュースには、驚かされました。

 先月13日に腫瘍の摘出手術を受けて成功。現在は入院して治療を続け、復帰を目指しているそうです。報道によれば、仕事の中止などはないようで、経過が順調なのだと思います。

 高橋さんが異変を感じたのは、今年の初夏。断続的な頭痛があって、当初は季節の変わり目の片頭痛のようなものかと思っていたものの、良くならず、緊急で脳のMRI検査を受けたところ、脳腫瘍が見つかったそうです。

 脳腫瘍は、一般に原発性脳腫瘍と転移性脳腫瘍に分けられます。高橋さんは、原発性脳腫瘍でしょう。

 脳は、頭蓋骨に覆われた閉鎖空間です。そこに腫瘍ができると、大きくなるにつれて頭蓋内の圧力が高まるため、頭痛や吐き気、意識障害などの症状がおこりやすくなります。頭蓋内圧亢進症といって脳腫瘍に共通する症状です。

 一方、脳は部位によって機能が異なるため、腫瘍ができる場所により、症状や術後の後遺症が異なります。それが局所症状です。

 たとえば、思考や自発性、感情などをつかさどる前頭葉に腫瘍ができると、言葉を理解できてもうまく話せなくなったり、自発性が低下したり、認知機能・集中力が下がったり。腫瘍とは反対側の片麻痺が生じることもあります。

 逆に後頭葉は、目から入ってきた色や形、動きなどの情報を整理して視覚イメージを形作る機能があるため、腫瘍とは反対側の視野が欠ける同名半盲が起こるのです。

 原発性脳腫瘍は、増殖速度が速い悪性と増殖速度が遅い良性があり、悪性は大脳や中脳、小脳、脳幹などの脳実質に生じやすい。これに対して良性は、脳実質以外の組織、脳を覆う髄膜や脳神経などに生じやすいのが特徴です。

 悪性と良性とでは、増殖スピードだけでなく、広がり方にも違いがあります。正常組織との境界が不明瞭で周辺にしみ込むように広がるのが悪性で、正常組織との境界が明瞭なのが良性です。

 この違いはとても大きく、悪性は手術で取り切るのが難しい上、術後の後遺症が重くなりやすい。放射線や抗がん剤も用いて治療します。良性なら全摘も可能です。

 良性か悪性か、発生部位など運に左右される側面が大きい病気ともいえますが、150種類以上に分類される原発性脳腫瘍のうち、最も多いのが髄膜腫。大部分の髄膜腫は良性です。髄膜腫でも頭蓋内圧が亢進するので、頭痛が生じます。あくまでも推測ですが、高橋さんは良性の髄膜腫ではないかと思います。

 もしそうだとすれば、治療は手術が基本。頭蓋骨の内側とはいえ、脳の外側にあるという点からも、全摘しやすい。

 私もYMO時代から高橋さんのファンで、ファッションリーダーとしても尊敬しています。元気に復帰する姿を祈るばかりです。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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