【Q】 新型コロナウイルス感染症の予防にトランプ大統領が使用を勧めたと言われる「ヒドロキシクロロキン」を服用することは可能なのでしょうか?(32歳、母親)
【A】ヒドロキシクロロキンは抗マラリア薬として使用され、現在、日本では全身性あるいは皮膚エリテマトーデスの治療薬として認可されている薬です。
これが、新型コロナウイルス患者の治療に効果があるとされたことから、トランプ大統領が予防的に内服を始める、と報じられました。しかし、その副作用が無視できないものであり、米国の食品薬品局(FDA)は猛反対していました。そして6月3日、ニューイングランド医学雑誌に「無作為化試験の結果、ヒドロキシクロロキンに新型コロナ感染症の予防効果は認められなかった」との記事が掲載されました。これで有効性に関する可能性が消滅した訳ではありませんが、ヒドロキシクロロキンの予防効果に対する希望は今後下火になるでしょう。
ヒドロキクロロキンは、もともとエリテマトーデスの皮膚症状を改善するほか、筋肉痛や関節痛を緩和し、さらには倦怠感など全身症状をやわらげます。抗炎症作用や免疫調節作用により、炎症症状を改善します。かつて、クロロキン網膜症で薬害事件をもたらしたクロロキンは網膜毒性が強く、2・5 %に網膜症の発症を認めました。一方、クロロキンの代謝産物であるヒドロキシクロロキンは組織親和性が低いため網膜毒性も高くはなく、0・1%まで低下しています。ですから適量であれば長期管理薬としても比較的安全に使用できるのです。しかし、網膜毒性が「ゼロ」というわけではありません。投与開始前に服薬に問題ないかを確認してから投与を開始します。
また、この薬の血中濃度が上昇しやすい肝臓病や腎臓病のある人も慎重投与が必要です。2年ほど前に、当医院はヒドロキシクロロキン使用中の眼科検査ができる施設であるかという質問を受けていました。対象患者に必要な眼科検査の項目は、視力検査、眼底撮影、網膜光干渉断層計、視野検査、そして色覚検査が入っています。当医院は、これらの検査に対応することができます。ヒドロキシクロロキン投与中には定期的に眼科検査を受け、見え方に異常が認められた場合には直ちに投与を中止し原因を精査する必要があります。長期服用時は少なくとも年に1回は眼科検査をおこない、網膜症状の早期発見に努めることになります。用量を守り、定期的なスクリーニングを行っていれば臨床的に問題となる障害が現れることは稀です。
ヒドロキシクロロキンはこのように、適応疾患が明確であることや副作用もある薬剤ですが、新型コロナウイルス感染症に対する予防効果は否定的な結果が出されています。一般に服用するような薬でないとお考え下さい。この薬剤にしろ、うがい薬にしろ、素人が効くかもしれないという薬剤の誤った情報を流すことは大変危険だと思います。
みんなの眼科教室 教えて清澤先生