病の克服は患者に聞け

網膜円孔・網膜裂孔<1>眼鏡店のススメで眼科医院へ

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「一言で説明すると目に穴が開いた病気です」 思わずマスクを握りしめた

 埼玉県内に住む自営業、高野稔さん(仮名=70)は、8月中旬のお盆休み、自宅から徒歩15分という眼科病院を訪ねた。近隣主婦の話しで、評判がいい眼科と聞かされていたからである。

 診察で「右の眼に、網膜円孔、網膜裂孔が見られます」と診断された。初めて聴く病名である。目の病気で「白内障」や「網膜剥離」、「緑内障」程度なら、なんとなく知っていた。だが、網膜円孔(もうまくえんこう)とは初耳である。

 診察をした院長にどんな病気ですかと尋ねると、「一言で説明しますと、目に穴が開いた病気です」

 目に穴が開いている病気!ただ事ではない。高野さんは、両手に挟んでいたマスクを、思わず握り締めたという。

 実際、眼科医の診察を受診するなど、実に50数年ぶり。高校1年の時、校医から近視と診断され、眼鏡を作るため、眼科病院を訪ねて以来の経験である。

 その後、いつも運転免許証更新の直前に眼鏡店を訪ね、視力検査を受けてきた。0・8以上という警察署の視力検査をパスするためで、近視が進んでいるときは視力に適した眼鏡に作り直していた。

 昨年、70歳の誕生日を迎えたとき、不本意ながらも地元の警察署に運転免許証を返納した。今回、目の異変を問われたきっかけも、その眼鏡店である。

「1年ほど前から新聞の活字がぼやけてしまう。本を読んでいるときや、テレビ画面に写るテロップもダブって鮮明に見えない。真っ先に白内障が進行しているのかなと疑っておりました」(高野氏)

 カメラのレンズに当たる水晶体が濁り、光が目の中に十分に入らなくなる病気が「白内障」(年間、手術症例140万人=2015年眼科先進医療研究会)である。

 そのために物が白くぼやけて見えるという中高年に多い病気だ。

 コロナが騒がれ始めた今年3月、高野さんは文字がぼやける原因が、視力に合わないメガネが犯人と思い、20年ほど通っている眼鏡店を訪ねてみる。

 視力検査を終えた担当者が、「視力が随分落ちていますが、原因が近視だけとは思えません。1度、眼科の専門医師に診て貰ってはどうでしょうか」と、アドバイスを受けた。しかし、眼科医の治療は、「目に迫るメスがチラチラ見えて怖い」とか、「目に注射を打つ、痛いのなんの」といった、恐ろしい話が、脳裏に焼き付いていた。

 高野さんはそうした風評を信じ、眼科医の診察から足が遠のいていた。

 しかし、コンビニでタバコを購入する時も、銘柄に振られた商品番号がぼやけて読めないという煩わしさが続いていた。

 夏の盆休み、重い腰を上げて、自宅近所の眼科病院に診察の予約を入れた。

 待合室で診察を待つこと小1時間。その間、座ったまま、ペンライトで眼を診察され、瞳孔を開くという点眼薬も挿入された。

 さらに15分の間を置いて再度、ペンライトで眼の瞳孔を診察される。先に、通常の視力検査を済ませてから、「高野さん、診察室にどうぞ」と、院長と看護師が待機する診察室の椅子に座らされた。まな板の鯉になった心境である。

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