埼玉県内に住む高野稔さん(仮名、70=自営業)は、盆休みを利用して、自宅から徒歩でも行ける近所の眼科病院を訪ねた。
1年ほど前から新聞の文字がぼやけて読みづらいという症状が続いていたからである。
視力が急激に落ちている原因は、中高年に多い「加齢性白内障」ではないかと疑った。
最初に視力の検査があり、その後、待合室で、瞳孔を開く点眼液(ネオベノール)を挿入され、約10後に診察室に入った。
丸い椅子に座り、機器に顔を近づけてあごを固定する。担当医師から、
「では右の眼から診察していきましょう」
と、言われ、レンズを通して眼に強い光が当てられた。
眼を正面に向けたままの状態で、「目線を上に、下に、右、左に、斜め左、斜め右」と指示を出され、眼をグルグルと動かす執拗な診察である。
「検査項目が多いですから。少し我慢してください」と、言われて、右目の診察が終えると、こんどは左目に強い光が当てられた。
検査項目は「屈折検査」から始まり、「角膜曲率」、「精密眼圧」、「調整検査」、「眼底三次元画像解析」と続き、右目は「汎網膜硝子体検査」が行われた。
網膜の断層を撮影するのが「眼底三次画像解析」で、「汎網膜硝子体検査」(OCT)は、特殊なレンズで眼の奥を見る検査である。
診察が終了し、看護師が診察室の明かりを点灯すると、担当医がおもむろ診断の結果をこう告げた。
「病名は網膜円孔・網膜裂孔です」
いったいどのような病気なのか。これまで自覚症状は全くない。眼に穴ですか!と質問すると、
「そう、眼に穴が開いている病気です。あなたの場合は、生まれつきかもしれませんが、中高年に多く、原因は加齢や近視などですね。治療を怠ると白内障や網膜剥離を速めてしまいます。治療の選択は、レーザー治療による凝固です」
このように説明を受けても、今一つ理解が出来なかった。
担当医師は、さらに動画を見せながら、網膜円孔が発症するメカニズムを解説してくれた。
眼の表面には、眼を護る角膜や虹彩、それにレンズの役割を果たす水晶体がある。いわゆる瞳である。
その水晶体を取り囲むように硝子体があり、さらに奥にフイルムの役目をする網膜がある。
つまり、眼で捉え物が水晶体に写され、写された物は、網膜というフイルムに収まる、
物や活字といったこうした視覚情報が、網膜の視神経を通して脳に伝えられるのだ。
ところが加齢などが原因で、眼の内部の体積(硝子体)が縮小すると液化(液化硝子体)部分が増え、網膜にも変化が起こる。
高齢者でなくても若年層に起こる網膜剥離は、強度の近視や遺伝性等、または眼を強く打ったりすることが主な原因だ。
担当医は、「眼球の内部は硝子体という無色透明のゼリー状できていますが、この硝子体に引っ張られる形になると網膜が剥がれてきます。この剥がれるときに網膜が裂けたり、穴が開いてしまうのです」と、説明してくれた。
この日の診察料金は、2,320円(2割負担)である。
病の克服は患者に聞け
網膜円孔・網膜裂孔<2>自分では「白内障」を疑ったが…
加齢で網膜に穴が開いた