インフルエンザ流行期と重なり医療崩壊が懸念されている。そんな時に必要なのは「過去の治療法」ではないか?
弘邦医院(東京・葛西)の林雅之院長に聞いた。
新型コロナウイルス感染症の新規感染者数が増えているにもかかわらず、重症者は低く抑えられている。
その原因は日本人特有の感染症になりにくい生活習慣などといわれるが、実際は新型コロナ感染症の治療法が確立したからに他ならない。
「新型コロナウイルス感染症は8割が軽症で、治療が必要なのは基本的に残り2割で、この人たちは体内で新型コロナウイルスが増殖している状態なので、抗ウイルス薬により増殖を阻止します。症状が進行し全身に炎症が広がり、サイトカインストームが発生する段階では、ステロイド薬やインターロイキン6阻害薬などの抗炎症薬を投与し、重症化を阻止するのです」
つまり、新型コロナウイルスの治療は抗ウイルス薬と抗炎症薬の組み合わせで治療することが、現時点で標準治療になっているというわけだ。
問題は、新型コロナウイルス感染症に効くとされる抗ウイルス薬がすぐに手に入るわけではないことだ。
現在、新型コロナウイルス感染症に効く抗ウイルス薬であると証明されているのは、エボラ出血熱の治療薬候補となった「レムデシビル」くらいしかない。
「医療機関がレムデシビルを手に入れるには、『新型コロナウイルス感染症医療機関等情報支援システム』(G―MIS)の調査シートに入力して、厚労省から配布してもらわなければなりません。製薬会社は10~12月に世界で50万人分を製造すると公表していますが、世界的な需要が高いため、不足は必至です」
日本ですらこの状態だから、中進国では薬剤入手はかなり難しい。そのため薬剤を使わない、新型コロナウイルス感染症の治療法が模索されているという。
「そのひとつが、放射線を低線量で肺に照射する方法です。ペルーでは、使用可能な人工呼吸器(MV)は822程度しかなく、集中治療室のベッドと人工呼吸器の不足を回避するために、この方法が試されているようです」
米ジョンズ・ホプキンス大のまとめによると、9月7日午後3時現在でペルーの感染者数は68万3702人と米、印、伯、露に次いで5番目に多い。
「ペルーのリポートでは64歳の患者は、新型コロナウイルス感染症による肺炎を起こし、急速に進行して換気機能が悪化。両側の全肺容量に対する1Gyの放射線治療が施されて、換気機能が徐々に改善され、副作用がなかったと報告されています」
実はこの治療法は20世紀初頭に肺炎治療で使われてきた方法。リンパ球をターゲットにすることで、重篤な肺炎患者に見られるサイトカインストームを阻止するのが狙いだ。抗生物質の発見で廃れたが、新型コロナウイルス肺炎が急激なサイトカインストームを起こし、それが致命傷になることがわかり、再度注目されているのだ。日本でもこの冬、医療崩壊が起こるようであれば、低放射線療法が必要になるかもしれない。
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