がんに対する温熱療法「ハイパーサーミア」のここが凄い

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 がん細胞の温度だけを上昇させて、がんを死滅させたり弱らせる「ハイパーサーミア」。日本ハイパーサーミア学会第37回学術大会が9月12日(土)から10月12日(月)まで開かれる。今大会のテーマは「標準療法を目指したハイパーサーミアの治療戦略」。大会会長で群馬大学数理データ科学教育研究センターの浅尾高行教授に見どころを聞いた。

「ハイパーサーミア(温熱)療法は保険収載されていながらも、“エビデンスがないのではないか”との誤解があり、日本では馴染みの薄い治療法です。しかし、海外ではがんの標準療法に数えられる治療法です」

 実際、ドイツ、フランスではがんの標準治療のひとつに数えられているという。

「日本でも誤解が解けてハイパーサーミア療法を導入する動きが出てきています。たとえば、千葉県がんセンターでは患者さんの請願運動により導入されました」

 今大会では世界中の温熱療法の論文をメタ解析したニロイ・ランジャン・ダッタ博士の特別講演が予定されている。

「ダッタ博士はスイスのアーラウ州立病院に所属されている放射線腫瘍学の医師兼研究者です。『エビデンスに基づくハイパーサーミア診療』についてお話しいただきます。がん治療においてハイパーサーミアがどのように使われているのか、世界でのがん治療での位置づけを知るにはとても役に立つ講演になるものと期待しています」

■いまが「がん標準治療」入りの分水嶺

 大会ではさまざまな演題が用意されている。とくに手術、抗がん剤、放射線などとの併用療法による上乗せ効果が優れており、腹膜播種、膵臓がんなどの難治性がんの治療効果に関する演題が多い。

「たとえば播種のある胃がんでは、手術後に抗がん剤を投与するとともに温熱療法を加えた10例と胃がんの手術のみの10例を比較したところ、前者の3年生存率36%に対して対照群は0%でした」

 放っておけば人工肛門が避けられない、進行直腸がんに対する温熱療法併用の放射線化学療法は完全奏効が27%だったという。

「ほかにも腹膜播種やトリプルネガティブの乳がん、免疫チェック阻害薬との併用による上乗せ効果などについても語られます。また、ハイパーサーミアの治療ガイドラインを2年前から作成しており、今回の学会はそれをまとめる学会でもあります。今大会のテーマが『標準療法を目指したハイパーサーミアの治療戦略』となっているのはそのためで、今大会は節目の大会なのです」

 医療関係者の中には、「体を温めるのなら温泉でも民間療法でもいいじゃないか」と思う人もいるかもしれない。

 しかし、それでは皮膚表面の温度は上がっても体の奥に潜むがんに熱が届かない。

「ハイパーサーミアは免疫の上乗せ効果が期待できるため、今後、脚光を集める治療法だと期待しています。より多くの人に理解していただけることを願っています」

 なお、今大会はオンラインで行われるが、そのためのオンライン学会システムが群馬大学で新たに開発されたという。

「現在、学術大会は民間の会議システムが利用されていますが、その中には海外のサーバーで運用され、情報が外国に利用される恐れがあります。それを回避するために大学内のサーバーでオンライン学会システムを開発しました。安全性に優れているため病院はもちろん、警察や消防署などから問い合わせがくるなど関心を持たれています」

 会議システムに興味がある人にとっても面白い大会になるかもしれない。

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