Dr.中川 がんサバイバーの知恵

93年が1なら98年は4割減 生年で変わる子宮頸がん発症リスク

ワクチン受けようかなァ…
ワクチン受けようかなァ…(C)日刊ゲンダイ

 生まれた年によって、がんで亡くなるリスクが変わる。そんな不公平があっていいでしょうか。皆さん、よくないと思われるはずですが、それが現実のものとなりそうなのです。海外の話ではありません。ここ日本でのことです。

 がんの中には、ウイルスや細菌の感染によって発症するタイプがあります。たとえば、肝臓がんは主にB型とC型の肝炎ウイルスが、胃がんはピロリ菌が、そして子宮頚がんはヒトパピローマウイルス(HPV)がそれぞれ感染すると、発症しやすくなるのです。

 そんな感染性のがんはウイルスや細菌を除去したり、ワクチンで感染を抑えたりすれば、発がんの予防になります。肝炎ウイルスについては、ウイルスを駆逐する治療法ができ、胃がんのピロリ菌は除菌治療が普及しているのはご存じかもしれません。

 ところが、子宮頚がんについては、危うい。HPVを抑えるワクチンがありながら、接種が進んでいません。

 HPVワクチンは、2009年に初承認。10年に公費助成がスタート、13年4月に定期接種化されました。その2カ月後、副反応問題を受けて厚労省は積極的接種勧奨の中止を自治体に要請しています。

 定期接種は小6から高1の女性が対象で、接種の下限の小6の生まれ年で見た興味深い研究結果があります。日本にHPVワクチンがなかった93年生まれの子宮頚がん発症リスクを1とすると、ワクチンの普及でリスクが低下。公費助成の開始と重なる98年生まれは0・56に下がっています。4割超のリスクが抑えられるという意味です。

 その後、副反応問題の拡大でワクチン接種が停滞したことから、99年生まれは0・6、00年には0・98に上昇。02年生まれ以降は1に逆戻りしています。

 HPVには、100種類以上の型があり、定期接種スタート当時のワクチンは7割をカバーしていました。接種率の7割とカバー率の7割を掛け合わせると、49%とほぼ半分の子宮頚がんを予防できる計算。98年生まれは、この理論値に近い状況でした。最新のワクチンは9割のカバー率ですから、仮に7割の接種率なら6割の女性が助けられることになります。

 子宮頚がんの発症は30代がピークです。晩婚化の今、女性の30代は社会的には重要な働き手であり、出産が重なります。そんな世代の女性が子宮頚がんで倒れると、社会的にも家庭的にもダメージが大きいでしょう。

 皆さんのお子さんやお孫さんをイメージしてみてください。90年代後半の生まれなら、ワクチンを接種している可能性から子宮頚がんによる悲劇を免れるのに、00年以降だと悲劇に苦しめられる恐れがあるということです。

 副反応とワクチン接種の因果関係は、名古屋での分析により否定されました。自治体に問い合わせると、無料で受けられます。女性の命を守るためには、男性も知っておいた方がいいでしょう。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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